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自閉症、欠点でなく個性 佐々木さん(児童精神科医)が岡山で講演

「視覚情報に強い自閉症の特性を生かし仕事で能力を発揮する人もいる。長所を伸ばせば、弱点は目立たなくなる」と語る佐々木さん=岡山市

 「治らないことを治そうとするのは苦しい。弱点は受け入れ長所を伸ばそう」。自閉症など発達障害の支援を40年以上続け、米国の先進的な療育支援をわが国に伝えた児童精神科医の佐々木正美さん(79)=東京=は訴える。17年間務めた川崎医療福祉大教授、特任教授を今春退任。13日、岡山市内で講演し、「自閉症のまま幸福に生きられる環境をつくる」という目標へ、後に続く支援者へ伝えたいことを語った。

 「発達障害の子どもが授業中に走り回ったり、大きな声で叫んだりするのはなぜか。その時間と空間の意味が分からないから。でも、その子の方から私たちの世界に入ってくることはない。私たちが近づいて伝えないといけない」。佐々木さんは長年の経験で至った思いを話した。

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 自閉症の特徴は対人関係の難しさやこだわりの強さとされる。だが、特に知的障害のない高機能自閉症やアスペルガー症候群は困り感が周囲に見えにくい。

 そこで佐々木さんは神経心理学の視点で問題を整理し、文字や絵など視覚情報に強いが、話し言葉の理解は弱い▽全体でなく狭い部分に関心が向かう▽想像力が乏しく、他人の気持ちを読むことや予期せぬことが苦手―などとまとめた。

 個人差はあるが、特性が理解できれば支援のあり方も見えてくる。予期せぬことへの不安を減らすにはスケジュールを事前に示す。話し言葉の理解が弱ければ、視覚的な文字や絵カードも使えば意味を伝えやすい。こうした支援は「構造化」と呼ばれ、耳や目の不自由な人と手話、点字などを使うのと同じ発想という。

 話し言葉の理解の苦手さで強調したのが、支援者が短い言葉で具体的に話すことや、否定的でなく肯定的に伝える大切さ。例えば「うそをついてはいけない」より「正直に話そう」の方が分かりやすい。「叱りながら注意して良かった例は見たことがない」とも加えた。

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 こうした特性の理解に基づくのがTEACCH(ティーチ)という療育支援プログラム。1960年代に米国のノースカロライナ大が始め、佐々木さんは82年、初めて訪れ学んだ。小児療育相談センターで自閉症の支援に試行錯誤していたころで哲学、理念に共鳴し、著書や映像で日本に紹介した。

 川崎医療福祉大教授に転じた後は学生への講義のほか、岡山県内の保護者や保育士とも勉強会を重ねた。今後は、家族と立ち上げた「ぶどうの木」(東京)という組織を中心に活動する。11月に川崎医療短大でも講演する予定。

 TEACCHで専門家と対等な「共同療育者」と位置づけられるのが親。佐々木さんは会場の当事者家族に語った。「自閉症の人は素直で純粋。正直すぎて時に対人関係で苦労するが、いいじゃないですか。それは欠点というより個性。こういう子を持ったことを負い目に感じないでほしい」

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 講演はNPO法人岡山県自閉症児を育てる会が「自閉症児の自立を果たす為の支援者養成セミナー」として開いた。

 ささき・まさみ 新潟大卒。国立秩父学園職員、東京大助手、東京女子医大非常勤講師などを経て神奈川県児童医療福祉財団の小児療育相談センターで20年間、自閉症の子どもや家族を支援。1997年に川崎医療福祉大教授、2004年から特任教授を務めた。「子どもへのまなざし」など著書も多く、山陽新聞くらし面にも07~09年、エッセー「響き合う心」を連載した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年09月30日 更新)

タグ: 精神疾患

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