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訪問看護の今 医師と連携、在宅支える 自宅での看取りも

日差しを浴び暖かい縁側で心の通う訪問看護

 真冬とはいえ、いっぱいの日差しを浴びた縁側は明るく暖かい。倉敷市船穂町の民家。「こんにちは」。訪問看護ステーション「あんど」(同市真備町)の訪問看護師安田真由美さんが、腰を下ろした男性(86)にあいさつする。

 「ああ、こんにちは」。言葉数は多くはないが、笑顔いっぱい。「ここは暖かくて最高ね」。安田さんが声をかけながら男性の脈を取り、血圧を測り、聴診器を当てる。妻と長女にここ数日の様子を尋ね、介護する側の健康も気遣う。

 男性は数年前から体が衰え、歩くのが困難に。幾度かの入退院の後、昨年9月から週1回、自宅で訪問看護を受けている。パズルや手の運動、歩行練習、ボール投げ。メニューをこなしていく。嚥下(えんげ)不良もあり、のどや口・舌を動かす嚥下体操も行った。

 夜中に起き出すなど家族を困らせたこともあったが、安田さんや、看護師で「あんど」の管理者浅沼節子さんらが医師と相談、薬を変えるなどの処置が功を奏し、今はすっかり落ち着いている。全部で30分少々。男性は終始明るかった。

 訪問看護はかかりつけの医師の指示に基づき、看護師が一定の医療処置や看護ケアを行う。通常であれば在宅では医療との接点は通院か往診。往診は医師数や個々の考え方、地域事情などにより盛んな地域もあればそれほどでない場合もある。本人も介護者も高齢で通院がままならないといったケースも多い。訪問看護師たちは、医療とのパイプを確実で太いものにし、在宅を支えている。

 近年は、住み慣れたわが家で最期を迎えたいという人も増えてきた。看護師たちは訪問の頻度を増やし、医師と密接に連絡を取りながら苦痛を和らげ、家族の心にも寄り添ってきめ細かいサポートを続けていく。

 「あんど」では現在、看護師4人で33人の居宅を訪問している。認知症、がんや慢性疾患、けがの後遺症など患者はさまざま。「最期を看取る」について浅沼さんは「自宅での看取りを通じ、本人と家族、家族同士の絆が強まったと感じることが多い。訪問看護で安心できたと言われると役目を果たせたかな、と思います」と話す。

 浅沼さんらの支えで夫を見送った妻(79)に話を聞いた。「本人の強い希望で家に帰ったのですが、皆さんのおかげで夫も私も本当に心穏やかに過ごせ、悔いなく見送ることができました」。夫は、優しい筆致で妻への感謝の言葉を記し、旅立った。

訪問看護制度と現状

 訪問看護制度は在宅の寝たきり老人を対象に訪問看護サービスを提供する目的で1992年度に開始された。94年度には健康保険法が改正され在宅の難病患者、重度障害者、末期がん者等も対象とした。2000年度には介護保険制度施行に伴い、在宅の要介護者等に都道府県の指定をうけた訪問看護ステーションが訪問看護サービスを提供すると介護保険から料金が支払われるなどの制度化が進んだ。

 現在では在宅療養を希望する人ほとんどが訪問看護の対象となり、高齢化社会の進展の中で需要が増大してゆくことが予想される。岡山県内には現在、県指定の訪問看護ステーションが123カ所ある。(岡山県訪問看護ステーション連絡協議会)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年02月16日 更新)

タグ: 健康介護高齢者

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