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(2)新型うつ病の例 医療法人社団良友会 山陽病院理事長 中島良彦

中島良彦理事長

 このごろ新型うつ病とか、現代型うつ病という用語が主にマスコミを中心に取り上げられています。それが診断や治療を混乱させ、休職診断書にもおよんで社会的影響を引き起こしています。

 病名は治療に直結しますから、正確で信頼されるものでなければなりません。これらの用語は明確な定義があるわけではなく、また専門学会の正式病名ではありません。

 しかし、精神的うつ状態は全身病の慢性腎臓障害でも、脳梗塞の後遺症でも、社会適応障害でも、神経症にも、大切な人を失った時も深刻なうつ状態になりますので、多くの診断名があります。その中心は伝統的ドイツ精神医学から取り入れた類型があり、これは、前回にあらましを説明しました。私はその中の内因性うつ病と呼ばれるうつ病が本物のうつ病と考えています。

 最近よく経営者の友人から“何とこのごろの若者はひ弱になったなあ、ちょっと叱るとすぐ出てこなくなる。どうしたものか”と聞かれます。先日も往診を頼まれました。独身で父親と2人住まいの若い会社員が自宅で一日中ベッドの背もたれに寄りかかって、寝ているでもなく、起きているのでもなく、茫然(ぼうぜん)としています。こんな引きこもり状態が続いて半年になります。

 それでいて、仕事がきつい、しんどい、だるい、疲れやすい、寝られない、食欲がないと訴えますが、昼夜逆転し、夜中には台所に出て行き、作ってあれば食事をしたり、風呂に入ったり、ひげをそる。散髪に行かないので髪は伸びていますが、こざっぱりとした様子です。また時には会社の女子社員と談笑している姿も見られました。

 この人はうつ状態かな? と一瞬思いましたが、3人兄弟の長男で、幼時から何不自由なく育てられました。母親は大学卒ごろ亡くなり、大学在学中目的を失い、スチューデントアパシーとなり、1年間休学しています。

 会社での勤務状態を聞くと、前職は東京で一般的会社員として働いていましたが、どうしても仕事に慣れなくて2年で帰郷しました。今の会社では、当初営業担当が出来なくて、内部の事務職に回されましたが続かず、しんどい、疲れると言って休み始め、とうとう全く出社しなくなりました。

 彼は「うつ」の気分を訴えますが、深刻さがなく、周囲の何にも興味を示しません。仕事が合わないとだらだらと休み、疲れやすく、集中力、持続力がない状態が続いています。

 この例のように、新型うつ病とは職場に不適応で本人の主体性(やる気)がなく休職し、不眠を訴え、うつ状態を呈し、家に引きこもり、それを上司のせいにする他罰的な若者像を取って、「逃避型新型うつ病」と名付けているようです。私は伝統的診断学を用いて反応性うつ病または抑うつ神経症と診断します。このような社会に適応できない人が増えてきたように思います。



 山陽病院((電)086―276―1101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月16日 更新)

タグ: 精神疾患

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