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がん対策推進条例の成果は 岡山県医療推進課長に聞く

則安俊昭・岡山県医療推進課長

 日本人の死因のトップであるがん。がん告知の一般化に伴い、がん医療も治療一辺倒から、患者が豊かな人生を実感できるようサポートの充実にも力点が置かれるようになってきた。そんな中、岡山県は昨年3月、がんになっても安心して暮らせる社会の実現を目指し、県がん対策推進条例を施行した。施行から1年。則安俊昭県医療推進課長に、施行後の成果や条例に基づいて県が取り組むがん医療政策について聞いた。

 ―条例制定の経緯、内容の特徴は。

 条例は県議会の提案によるもので、岡山の制定は全国で27番目と決して早くはなかったが、患者会の意向を踏まえ「がんと闘う」といった常とう句ではなく、「がんになっても自分らしく生き抜くことのできる岡山県の構築を目指す」と明記したことが特徴。たとえがんで亡くなったとしても、それは敗北を意味しないし、延命だけが医療の目的ではない。条例に込めたメッセージは医療関係者にも届いていると思う。

 ―成果は現れているか。

 がん経験者が企画立案したがん医療フォーラムが昨春初めて開催された。県は、がん患者が治療をしながら仕事を続けられるよう、2013年度から経済団体への啓発を続けているが、14年度は回数を増やした上、社会保険などに詳しい社会保険労務士を講師に招き、中身の充実を図った。県教委はがん体験者や専門医が学校に出向くがん教育をスタートさせた。本年度も継続する予定だ。

 ―条例の実効性を高めるための県の役割は。

 各病院が開設しているがん相談支援センターの運営や市民向け公開講座、医療従事者を対象にした緩和ケア研修会などの事業費を補助している。医療機関に対して国や県の医療施策や方向性を的確に示す一方、患者会からは率直な意見や要望を聞き、施策に反映させていく。

 ―がんの種類別の県民の検診受診率と、受診率の目標は。

 国民生活基礎調査(13年)によると、肺がんが52・1%で最も高く、次いで子宮がんが46・9%、乳がんが46・6%、胃がんが45・3%、大腸がんが41・0%などで、いずれも全国平均を上回る。愛育委員や栄養委員が啓発に取り組んでいる成果であり、感謝している。第2次県がん対策推進計画(13~17年度)では、いずれのがんも受診率50%に引き上げるのが目標だ。

 ―どの病院でも高水準の治療を受けられるのが理想だ。

 県がん診療連携拠点病院である岡山大病院をはじめ、がん診療に力を入れている病院が一堂に集まり、医療の質向上に向けた会合を頻繁に開いている。そこではクオリティー・インディケーター(医療の質を客観的に評価するための指標)の策定も議論されており、がん医療の向上につながると期待している。

 ―条文には緩和ケアや在宅医療の推進もうたっている。

 これまでに約1200人の医師が県などが主催する緩和ケア研修を修了しているが、17年度までに1800人とするのが目標。市民に対しては、岡山大病院が中心となって緩和ケアの公開講座などが活発に展開されており、心強い。在宅医療については、24時間往診できる在宅療養支援診療所として国に届け出た施設数の割合が全内科医院の30%以上を占め、全国でも提供体制は上位にある。

 ―療養の不安や悩みを軽減するため、がん相談支援センターや患者会、がんサロンの果たす役割も大きい。

 情報収集に役立つよう、県内各地の療養に関する情報をまとめた冊子「がんサポートガイド」を作製し、がん診療連携拠点病院などで配布してもらっている。06年に全国初のがん条例を制定した島根県では、まちなかでもがんサロンが開かれたりしていると聞く。岡山県でも条例の理念を浸透させ、がん患者や家族の心と暮らしを支える機運をさらに高めていきたい。

 ―がん対策が着実に進むことを期待する。

 医療の目的は、単に命を延ばすことではなく、健康な生活や幸福な人生を支えることであるべきだ。高齢化が進む中、病や障害と共に生きる人を支える社会をつくることが必要で、条例にはこれらの視点が盛り込まれている。条例に沿ってがん対策を進め、真に幸福な長寿社会をつくりたい。

 のりやす・としあき 岡山大大学院医学研究科(放射線医学専攻)修了。1990年から6年間、岡山赤十字病院などに勤務し、96年に岡山県庁に入庁。井笠保健所長、健康対策課長など歴任し、2013年4月から現職。53歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年04月05日 更新)

タグ: がん

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