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つなぐ県北医療 津山中央病院開院60年(下)未来へ 最先端施設、基盤を強化

開院60年を迎えた津山中央病院。左に見えるのは「がん陽子線治療センター」の建設用クレーン=津山市川崎

 津山中央病院(津山市川崎)本館2階の一角。新見市消防本部の救急救命士(31)が人形を心肺停止者に見立て、肺にチューブで酸素を送る気管挿管の訓練に励む。

 現場で救急救命士が気管挿管の処置を行うには30症例分の病院実習が必要。受け入れ先になっている中央病院の修了者は104人(県関係分)に上る。その数は、県全体の約3割と県内12の実習病院の中で群を抜く。

 「救命率が上がり、医療現場での実習を通じて患者の容体から搬送先を決める判断力も身につく。ひいては地域医療が向上する」と副院長兼救命救急センター長の森本直樹(60)は説明する。

役割分担

 中央病院はここ数年、「地域連携」を推し進めてきた。

 地元開業医らから容体が急変した患者を引き受ける一方、病状が安定した患者の「逆紹介」をはじめ、病気や治療法を解説する公開セミナー、市外のへき地診療所などへの医師派遣も手掛ける。

 「地域に安全安心を提供するためには、中核病院と地元病院が役割分担し、共存共栄することが不可欠」と病院長の藤木茂篤(61)。背景には患者の集中化傾向がある。

 県北唯一の救命救急センターの2013年度の受診者は兵庫、鳥取両県の患者を含め約2万7千人。このうち心肺停止者は151人で、軽症者が8割以上を占める。535ある病床の稼働率は9割を超え、重篤患者に対応できにくくなる危険性を常にはらむ。

中四国初

 少子高齢化と人口減が加速する日本。荒波は、県北にもろに押し寄せている。

 10年国勢調査によると、作州地域10市町村の人口は24万525人。わずか5年で約1万1千人も減った。患者の減少は病院経営に直結する。

 20~25年を境に介護ニーズが急上昇し、医療ニーズは急減する―。こうした将来予測に基づき、中央病院が打ち出したのが最先端の医療施設の整備だ。

 今春、本館北側の敷地に着工した「がん陽子線治療センター」(地上3階、地下1階延べ約3900平方メートル)はその一つ。がん病巣にピンポイントで照射し死滅させる陽子線治療施設は中四国初で、16年3月のオープンを目指す。病院を運営する一般財団法人・津山慈風会と岡山大が共同運用し、患者は年間250~300人を想定している。

 さらに、血管のエックス線画像をリアルタイムで見ながら施術できるハイブリッド手術室、5階建ての新病棟(約200床)も18年度までに順次整備する計画だ。

 他にはない高度な医療の提供を通じ、中四国など広域から患者を集めるとともに、有能な医師の確保につなげ、将来に向けて経営基盤の強化を図る。向こう4年間で約170億円もの巨費を投じるビッグプロジェクトには、そんな狙いがある。

 「医療という名のたすきを次代へしっかりつなぐことが私たちの使命だ」

 開院60年の節目を迎え、慈風会理事長の浮田芳典(67)は決意を新たにする。(敬称略)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年12月06日 更新)

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