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(1)心臓疾患-1- 津山中央病院院長補佐・心臓血管センター長 松本三明

松本三明センター長

【図1僧帽弁形成術】後尖の腱索が切れて逸脱し逆流を起こしていた(矢印、写真上)後尖を台形に切除、縫合し、弁輪にリングをかけた。左室内に水を入れ加圧する水テストで前尖、後尖の接合が改善し逆流は消失した(写真下)

【図2ステントグラフト手術】胸部下行大動脈に動脈瘤が二つある(矢印、写真左)ステントグラフトにて動脈瘤を治療した(写真右)

 がん、心疾患、脳血管疾患は日本人の死因の上位を占めています。皆さんの関心も高いはずです。一方、津山中央病院が所在する津山市を含む岡山県北エリアは高齢化率(65歳以上の人口割合)が高く、高齢化によりこうした病気の発症リスクは高まります。高齢化先進地ともいえる地域での当院の診断・治療実績を交えながら、これらの病気の最新事情をお伝えします。初回は心臓病です。

 当院心臓血管外科は、岡山県北で唯一、心臓血管外科手術を行っています。1997年に開設され、2014年2月に心臓胸部大血管手術が1000例に達しました。14年度は94例の手術を行い、うち30%が緊急手術でした。当院がカバーする県北医療圏人口30万人の高齢化率は33・7%(岡山市は24・1%)と高く、年間平均4800台の救急搬送を受け入れる当院の救命救急センターは、必然的に緊急処置を要する高齢者が多いのが特徴です。

▼虚血性心疾患

 狭心症に対する冠動脈バイパス術は、人工心肺を使用せず心臓を拍動させたまま血管吻合(ふんごう)を行うオフポンプ手術を主としています。人工心肺を使用しないため、脳梗塞や腎機能低下などの合併症のリスクを低くできます。日本冠動脈外科学会の13年度のデータでは、オフポンプ手術の全国の平均施行率が65%で、バイパス手術を受けた患者のうち70歳以上が52・8%、80歳以上が12・3%と、年ごとに高齢化がすすんでいました。当院では14年までの7年間、184例の単独バイパス手術のうち85%がオフポンプ手術でした。また、13年度の冠動脈バイパス術のうち70歳以上が68%、80歳以上が25%と全国平均より多く、高齢患者に可能な限りオフポンプ手術を行い、低侵襲手術のメリットを生かしています。

 急性心筋梗塞の合併症で、死亡率の高い心破裂や心室中隔穿(せん)孔に対しても積極的に手術を行っています。さらに心筋梗塞慢性期に合併する、左心室瘤や虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対しても、瘤切除や、腱(けん)索を引っ張っている偏位した乳頭筋を弁輪に釣り上げたり、寄せたり(接合術)する左室形成術を行っています。

▼弁膜症

 昨年は弁膜症手術を40例行い、同時に冠動脈バイパス術や二弁以上に治療を行う複合手術が55%を占めました。患者の高齢化に伴う大動脈弁狭窄(きょうさく)症の増加により、大動脈弁置換術が増えています。僧帽弁は前尖(せん)と後尖の2枚の弁から成り、弁に付いたひも状の腱索が心筋から出た乳頭筋につながり引っ張られ、パラシュートのような形で左心室の高い圧に耐えて逆流を防いでいます。

 弁付着部の弁輪が拡大したり、腱索が切れたり、弁が細菌感染により破壊されたりして、僧帽弁逆流をきたします。近年、弁置換術に代わって、壊れた僧帽弁を直して逆流を治す形成術が患者のQOL(生活の質)を上げ、耐久性も良いことが証明されてきました。当院でも90%以上の僧帽弁逆流に対して形成術を行っています。前尖の切れた腱索に対しては、人工腱索を乳頭筋に縫い付け、弁の高さを正常の高さに合わせます。後尖の病変に対しては三角形または台形に切除して高さを合わせます(図1)。

▼大血管疾患

 大動脈瘤に対して通常の手術と低侵襲手術であるステントグラフト治療(図2)を行っています。心臓から出てすぐの大動脈瘤に対して、瘤とともに頭へつながる血管を全て取り換える弓部置換術や、難度の高い胸腹部大動脈瘤に対しても、術前にCTで脊髄を栄養するアダムキュービッツ動脈(AKA)を同定し、術中に脳を刺激して運動誘発電位を確認しながらAKAを再建し、対麻痺(まひ)を防ぐ取り組みを行って成果をあげています。

 急性A型大動脈解離は心臓付近の大動脈の内中膜が逆むけに裂けていく恐ろしい病気で、発症から1時間ごとに1%ずつ死亡率が上がっていきます。当院では過去8年間に急性A型大動脈解離が143例救急搬送され、80例の緊急手術を行っていますが、61例は心肺停止で来院して1例を除き手術が不可能でした。今後の課題と考えます。

 ステントグラフト治療は、日本で有数の症例数を誇る施設で研修を受けた医師が胸部、腹部のステントグラフト指導医として担当しています。また、腹部大動脈瘤で開腹手術の必要な患者には、私が開発した小切開手術を行って術後早期回復を目指しています。

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心臓血管外科の周術期の患者が合併症なく、早く回復するために各科の医師のみならず、コメディカルとのチーム医療を推し進めています。なかでも心臓リハビリには特に力を入れており、術後の回復を強力にサポートしています。



津山中央病院((電)0868-21-8111)

 まつもと・みつあき 愛媛県立宇和島南高、岡山大医学部卒。同医学部第一外科、心臓病センター榊原病院、川崎医大胸部心臓血管外科講師など経て2004年から津山中央病院勤務。医学博士。日本外科学会指導医・専門医、日本胸部外科学会指導医、日本循環器学会専門医、日本心臓血管外科学会国際会員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月20日 更新)

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