文字 

虚血性疾患や不整脈 最新医療で挑む 岡山ハートクリニック

日名一誠理事長(右上)、村上充院長(右下)、村上正明副院長(左上)

最新機器のサポートを受け村上副院長(左)の知識と経験と技が日々、命をつなぐ

 「最新の医療を提供しつつ、患者と家族に寄り添う『かかりつけ医』の役割を果たしたい」。日名一誠理事長のそんな理念に共鳴した心臓専門医が集い、開院してもう7年目。「岡山ハートクリニック」の名は岡山県内外にすっかり定着した。「その後、痛みや違和感はないですか」「はい、大丈夫」。大病院とは雰囲気の違うこぢんまりした待合室で、いすに腰掛けた中年女性と脇にしゃがんだスタッフ。女性の短い一言に安堵(ど)と信頼がにじむ。術後の検査で訪れたのだろうか。

 最新治療の一つが、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患に対するカテーテル治療。手首の動脈から細いカテーテルを入れ、ガイドワイヤを頼りにはるか心臓まで送り込む。動脈硬化などで狭まったり詰まった冠動脈の病変部を風船で押し広げ、金網状の筒(ステント)を留置、血流を回復させる。開胸し、別の血管で回り道を作る心臓バイパス手術に比べ患者の身体的負担は劇的に減った。

 村上正明副院長は、ステント治療やカテーテル検査で屈指の実績を誇る。曲がりくねった血管、狭窄(きょうさく)・閉塞の具合も人により、病状によって千差万別。CT画像や血管造影画像をにらみ、手元で微妙な操作をしながら慎重にカテーテルを進める。少し誤れば血管はたちまち破れる。「押してはだめ。もっとも押さなければカテーテルは入らないが…。要は乱暴にしないこと」。説明する言葉に手技の微妙さがにじむ。

 長年の動脈硬化で血管内が石灰化し、目詰まりを起こす慢性完全閉塞。この難敵に、村上副院長が経験と知識と技術を武器に挑む。とがったガイドワイヤを選び、時には2本を使う。一見、一様な閉塞部にも「最近まで空洞だった“柔らかい岩盤”がどこかにあるはず」。微妙な感触を頼りにそれを探り出し、ガイドワイヤを通していく。

 人間の体は不思議なもので、慢性閉塞の場合、その血管が完全に詰まる前に、別の場所に血液の通り道を自ら作る。そのバイパス血管を通じ、閉塞部を逆方向から攻めることも。「自然にバイパスを作る…。人間の体は本当に良くできていると思う」。人体と生命の神秘に対する謙虚さが、日々の診療のベースにある。

 少し前までせっかくステントで狭窄部を広げても網目から血管壁の細胞が盛り上がり、再狭窄に陥ることが少なくなかった。しかし、塗布した免疫抑制剤で肉盛りを抑える「薬剤溶出型ステント」が登場。最近では再狭窄の確率は3%程度まで減った。

 「溶けて、というか2年ほどかけて体に吸収されてしまうステントが開発され、間もなく私たちも使えるようになる。目下の期待はそれですね」。虚血性心疾患治療の今後を語る村上副院長の表情は明るい。

  ■  □

 1993年4月の本紙に、日名理事長が当時内科医長として在籍した心臓病センター榊原病院で、他の医師らとともに県内で初めて「カテーテル焼灼(しゃく)術」による不整脈治療に成功したという記事が載っている。不整脈はカテーテル焼灼術(=アブレーション)によって初めて、根治が可能になった。岡山ハートクリニックが創設以来重視してきたもう一つの分野だ。

 心臓は内部の「洞結節」が発する指令で規則正しく動いている。だが、何らかの要因で余分な電気の発生源や通り道ができることでリズムが乱れ、不整脈が起きる。動悸(どうき)や息切れ、さらに心臓肥大。それだけでなく、不整脈は脳梗塞につながりかねない。

 「犯人は不整脈がもとでできる血栓。脳梗塞の3分の1は不整脈に起因し、そのほとんどが心房細動です。頻脈性不整脈の一種で、心房が震えるような動きに陥る。血液が停滞して血栓ができ、脳まで運ばれて血管を詰まらせる」。村上充院長が説明してくれた。同クリニックは、加齢とともに増えるこの心房細動の治療に、特に重きを置く。

 脚の付け根からカテーテルを入れ、心臓へ。高周波で発生させた熱で原因部分を焼き、余分な電気信号の流れを断ち切る。原因部分の見極め、どの程度焼くか。治療には高度の技術と多くの経験を要する。

 カテーテルアブレーションの手術数最新ランキングで、同クリニックは全国5位。心房細動に限れば順位はさらに上がる。心房細動に対する実施数は技術力の証明とされる。前後に並ぶのは大学病院を含む大病院ばかり。一覧表の中で「クリニック」の存在が際立つ。村上院長は「働き盛りのお父さんが突然脳梗塞で倒れる。そうしたリスクを考えれば、難しくても頑張らなければ」という。

  □  ■ 

 「糖尿病、高脂血症、高血圧、それにたばこ」。日名理事長ら同クリニックの各医師から、心臓疾患のリスク要因を繰り返し聞かされた。医学が進歩し、名医がいても、どんな病気であれ早期発見、早期治療がリスク軽減につながる。

 同クリニックの昨年の冠動脈CT受診者数は開院の09年(3月以降)に比べ約4倍。わずかな症状でも積極的に受診する人が増えている。疾患の早期発見に役立っており、「かかりつけ医」の役割を果たしているといえる。

 一方で、心臓病患者の中には一生病気と付き合わねばならない人が少なくない。日名理事長にも開院のずっと前から診てきた患者がいる。「患者と一緒に年齢を重ね、これからも一緒に老いていく。だからこそ、心臓だけでなく体に関するあらゆることを、かかりつけ医と思って相談してほしい」。

 病床数19のクリニックには心臓と同様に、温かい血が通っている。

 ◇ 

 岡山ハートクリニック(086―271―8101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月21日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ