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地域医療の人材育成担い10年 岡山医師研修支援機構糸島理事長に聞く

岡山市で毎年開いている病院合同説明会「岡山マッチングプラザ」の様子=2015年4月

地域医療体験実習で訪問診療を行う医学生(右)=2015年9月(画像の一部を加工しています)

糸島達也理事長

 地域医療を担う人材育成や医師のキャリアアップを図る「認定NPO法人岡山医師研修支援機構」(事務局・岡山大医学部)が2006年3月に設立され丸10年を迎える。岡山大学病院や同病院と治療連携面で関連の深い中四国、近畿の医療施設が参加し、全国の医学生や研修医らとの研修のマッチング、地域医療体験実習、医師たちによる自主的な勉強会などに取り組んでいる。糸島達也理事長(岡山済生会総合病院名誉院長)に、これまでの取り組みや成果、今後の展望を聞いた。

 ―機構設立の目的は。

 設立のきっかけは2004年にさかのぼる。それまで医学生は卒業後に自らが希望する診療科のある大学の医局に入り関連病院で研修するのが一般的だったが、初期臨床研修制度(2年間)が導入され、医学生は全国の病院と自由にマッチングできるようになった。岡山県内でも一部の医学生が県外の大都市の病院を研修先に選ぶようになり医師不足が懸念されるようになった。

 そこで、岡山大学、川崎医科大学、岡山県内外の岡山大学の関連医療機関が連携し、医療、医学の進歩に貢献する人材育成を目的にNPO法人を組織化。質の高い研修や転職・復職などのキャリア支援をするとともに、各病院の特長をPRし、全国から医師を呼び込むことにした。

 ―加盟している医療機関の数、研修などの情報提供をしている学生らの人数は。

 15年11月現在、会員施設は、岡山106、広島26、香川15、兵庫12、愛媛11、高知と山口各5、京都、大阪、鳥取、島根各1の計184施設で、ほとんどは岡山大の関連病院だ。無料のメール会員は499人(医学生137、研修医354、医師8)で、研修や医師募集などの情報を伝えている。

 ―主な取り組みは。

 最も大きなイベントは岡山市内で年1回開いている病院合同説明会「岡山マッチングプラザ」。例年、約70病院と医学生、研修医ら約200人が参加している。当初は初期臨床研修を終えようとする研修医への後期研修プログラムの紹介が主だったが、近年は医学生への初期臨床研修プログラムや、現役医師のキャリア相談など、多彩な情報提供をしている。

 このほか、主に研修医向けのセミナーも年1、2回開いている。中にはベテラン医師にとって有用な内容のものもあり、さまざまな世代の医師が専門の垣根を越えて情報共有や連携を図る良い機会になっているようだ。研修医に対する医師の指導力向上にも力を入れている。

 ―医学生や研修医らに地域医療に関心を深めてもらうための研修面での工夫は。

 岡山大学の地域医療人材育成講座と連携し、岡山県北や香川県小豆島などで宿泊型の地域医療体験実習と、岡山県済生会などが運営する離島の健診船・済生丸での多職種連携体験実習をし、訪問診療や患者とのコミュニケーションなどを学んでもらっている。ありがたいことに地域医療に触れる機会が少ない都会の研修医たちも大勢参加してくれており、エリアを越えた医療水準の向上につながると確信している。

 ―人口減少時代を迎え、地域医療を取り巻く環境は厳しいのでは。

 岡山、広島、香川などの中小病院の理事長や院長、大学の医学部や法学部の教授、マスコミ、弁護士らで地域医療部会を立ち上げ、毎月勉強会を開き、病院経営の在り方や多様な医療ニーズに応えるための病院間の連携などをテーマに議論している。職種や立場の異なる人たちが地域医療の充実や日本の医療の将来像を語り合い連携を図る試みは全国でも例がなく、機構設立による大きな成果といえる。

 ―運営費の捻出方法は。

 年間予算約1700万円のうち、岡山県から約1500万円の補助をいただいていたが、16年度からは補助がなくなり、独自で運営費を獲得しなければならない。昨年10月、寄付者に対して税制面での優遇措置が適用される認定NPO法人に指定されたのを弾みに、機構の活動に賛同してくださる方々から少しでもご寄付をいただき、地域一丸となって良い医師を育てたい。

 ―10年間の取り組みをどう評価するか。今後の目標、目指すべき方向性は。

 どの専門家でもそうだが一人前になるには10年かかると言われる。つまり、活動の成果はこれから徐々に現れると期待している。セミナーやイベントへの参加者数や研修医の獲得者数など目先の数字だけにとらわれず、二つの使命を果たしていく。一つは岡山を医療人材育成における国内の主要拠点に成長させること。もう一つは、中四国と兵庫を含めた圏域での病院間の連携をさらに深め、医療の進歩に貢献することだ。

 医師臨床研修制度 2004年、医師免許取得後の2年間の臨床研修を義務化。それまでは出身大学やその関連病院での専門に特化した研修が一般的だったが、研修先を自由に選べるようにした。幅広い診療能力が身に付くよう、内科、外科、救急(麻酔科を含む)、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の7科目を必修とした。08年からは内科、救急、地域医療の3科目を必修、外科、麻酔科、小児科、産婦人科、精神科から2科目を選択し、自身の専門の診療科を組み合わせるように改められた。

 いとしま・たつや 岡山大学大学院医学研究科修了。同大医学部第1内科助教授を経て、1989年に岡山済生会総合病院へ。2003年から10年まで院長を務め、現在は名誉院長。11年に認定NPO法人岡山医師研修支援機構理事長に就任。岡山県医師会副会長、岡山県地域医療支援センター長も務める。75歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年01月31日 更新)

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