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山陽病院 家族や地域との絆取り戻す

入院患者の退院後の生活をどうサポートしていくかを話し合う中島院長(右から2人目)、油谷外来部副主任(右端)ら

デイケアを指導する円城寺さん。趣向を凝らした取り組みを実践し、成果を上げている

 心の病を患いひきこもっている人たちに、家族や地域との絆を取り戻してもらいたい―。山陽病院のスタッフの思いは精神科医療の原点ともいえるこの一点に集約される。

 統合失調症、うつ病、双極性障害…。どんな病気であろうとも、発症に至る経緯は人によって違う。患者の繊細な心の機微に触れながら、再び社会と関わる勇気を高めてもらうことに心を砕く。

 そのサポートの柱として2012年4月から始めたデイケアは、じわじわと成果を上げている。

 デイケアを行う病院は珍しくないが、山陽病院は他にはない先進的なプログラムを実践している。インプロバイゼーション(インプロ=即興)を生かした身体表現ゲームだ。

 インプロとは、演劇や舞踊などで用いられる手法で、脚本や段取りがなくその瞬間の感情に即興で対応しながら作り上げていく事を言う。いつ、どんなことに遭遇するか分からない日々の生活はいわばインプロの延長上にある。人と関わることが苦手な患者たちが、言葉ではなく身振りと手振りで自分の考えを伝える能力を磨く訓練だ。

 「今朝は目覚めが良かった」「道端にきれいな花が咲いていた」などと、その日の感動したことや気持ちよかったことも発表し合う。クラブ活動は、ちぎり絵やカラオケ、読書、園芸など各自が好きなことに取り組むメニューと、ペタンクや輪投げなどの集団ゲームを併用する。過去を悔やんだり将来への不安を抱くよりも、“今のこの瞬間”を楽しむ力を養うのが目的だ。

 他に、心理教育に解決志向アプローチを取り入れたり、認知のゆがみの学習なども行っている。

 デイケア責任者の円城寺浩一看護師は「参加者の中には就職したり、ひきこもっていた人が友人とカラオケや食事を楽しむことができるようになったりするなど、成果が出ている」と喜ぶ。

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 精神科の疾患は、病状が安定すれば早く退院してもらうのが好ましい。入院が長期になるほど社会復帰への意欲を失う人が出てくるためだ。山陽病院は、精神保健福祉士らによる社会復帰に向けた支援と地域での生活を安定させるための訪問看護に力を入れる。

 退院が予定されている患者には、病気との付き合い方や利用できる社会資源などをテーマに心理教育を実施。社会復帰を果たした元入院患者を招いて自身の体験を語ってもらうこともある。バスや電車に一緒に乗ったり、買い物に付き添ったり、家計簿の付け方、携帯電話の使い方を教えたりする。一人暮らしをする人には、一緒にアパート探しもする。

 訪問看護の狙いは、患者の悩みを聞いて助言したり、日常生活の様子を観察することにある。外来診療では、きちんと食事が取れているか、薬を飲めているかといったことまで確認するのが難しい。患者も医師の前では良い格好をしようとする傾向があるだけになおさらだ。

 「『退院して良かった』と思ってもらえるようにするのが自分たちの仕事。強制ではなく、患者さんが自発的に社会に戻れるよう支えていく」。精神保健福祉士の油谷圭介外来部副主任は、患者の立場に立ったサポートを強調する。

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 とはいえ、退院後の生活を支える家族がいなかったりして退院を決断できない人たちも多い。いわゆる社会的入院だ。社会の中に戻る場所がない人たちにどう寄り添っていくか。長い時間を掛け粘り強く関わり続ける視点も必要だ。

 「地域で暮らす人と人の関係性を大切にするトータルケアを実践したい」と言う中島唯夫院長は、解決の一助として元入院患者たちのグループホームの開設を検討している。日中は各自がデイケアや仕事に出掛け、夜は施設が提供する食事を取るというように、こぢんまりとした下宿のような姿をイメージしているという。

 「薬に頼った治療には限界がある。精神科医療は病気を診るのではなく、患者さんの心と体、患者さんを取り巻く環境を診なければいけない」。中島院長が長年の臨床経験から得た結論だ。

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 山陽病院(086―276―1101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年04月04日 更新)

タグ: 精神疾患

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