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岡山大大学院佐野俊二教授に聞く 米大へ移籍、心筋再生医療を追究

岡山大大学院心臓血管外科の佐野俊二教授

 小児心臓病医療のパイオニアである岡山大大学院心臓血管外科の佐野俊二教授(64)が、12月から米名門のカリフォルニア大サンフランシスコ校(UCSF)に移籍し、外科学教授として外科医療や再生医療分野の臨床、研究に携わる。赴任を前に、決断の経緯や新天地での抱負、後進へのメッセージなどを聞いた。

 ―渡米までのいきさつは。

 1年前に誘いがあった。高度な手術と先進的な研究をともに手掛ける心臓外科医は世界的にも少なく、岡山大チームで取り組んだ心臓の再生医療を高く評価してくれた。ただ、私は米国の医師免許がなく、国内に手術を待つ患者もいる。当初は断ったが、それでも米政府に働き掛けて免許が取得できるよう段取りをしてくれた上、定期的に日本で手術するとの条件も受け入れてもらった。研究室やスタッフも用意され、熱意を感じて決断した。

 ―移籍先の特徴は。

 UCSFは小児医療に高い実績がある全米屈指の医学専門の研究教育機関。再生医療の世界的拠点であるグラッドストーン研究所と隣接し、密接な協力関係にある。しかし、近年はライバル大に押され気味で、巻き返しのため優秀な医学者や研究者の獲得や施設の拡充に躍起だ。

 ―新天地で重点的に取り組みたいことは。

 心筋機能の再生医療研究に光が見えており、さらに追い掛けたい。人材、資金面で豊富なUCSFでは日本より短期で成果が出せる。私たちは成人で難しい心筋機能の再生治療が乳児には効果が高いことを突き止めたが、因果関係を解明することで、より高い年齢にも応用できる可能性がある。例えば乳児期に心臓幹細胞を採取し、成人して心不全になった時に培養した細胞を体内に戻すことで心筋機能の回復につながるかもしれない。移植を必要としない医療を実現する夢に一歩でも近づきたい。

 ―佐野教授の手術を望む日本の患者や家族への対応は。

 UCSFで年間150件以上の手術をする条件で、年8回は帰国して手術することを認めてもらっており、希望者には喜んで対応する。世界中から研究者が集まる大学だけに勉強になることは多いはずで、学んだ成果を日本の医学発展や治療法改善に還元したい。ベトナムなどアジアへの医療支援も継続するつもりだ。

 ―後進へのアドバイスは。

 海外留学し、世界トップレベルの環境を知ることが大切。優秀な研究者や最新の知見に触れることは自身の財産になるし、新たな発想も生まれる。器用さや勤勉さで日本人は欧米の医師に絶対負けない。もっと自信を持てばいい。ただ、欧米の医師は手掛ける症例数が圧倒的に多く、不器用でも上達できる環境に身を置いている。ハングリー精神を持って世界に飛び出してほしい。

 さの・しゅんじ 豪・メルボルン大などの留学を経て、1993年から岡山大教授。心臓病の女児から心臓の細胞を採取し、培養後に戻して心筋機能の回復を図る世界初の治療を行ったほか、小児への高度な心臓外科手術も多く手掛けてきた。アジアでの手術や医療技術の指導にも長年尽力する。岡山大大学院修了。福山市出身。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年11月29日 更新)

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