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介護の悩み赤裸々に 「アルツハイマーの母をよろしく」刊行 野田さん本紙連載

野田さんが刊行した「アルツハイマーの母をよろしく 在宅介護続投中」

 本紙くらし面にフリーライター野田明宏さん(51)=岡山市=が連載している「アルツハイマーの母を支えて 中年息子の介護記」をまとめた「アルツハイマーの母をよろしく 在宅介護続投中」が刊行された。認知症の母和子さん(80)を在宅で介護して五年余。その生活や喜び、悩みをつづり、同じ思いを抱える人たちにエールを送る書だ。

 読者から約百六十通の手紙やメールが寄せられ反響を呼んでいる連載のうち、二〇〇五年七月のスタートから今年二月分までを加筆、修正。新たな写真を加え整理した。

 野田さんは大学卒業後、多くの職業を経て、五十カ国を一人旅。その後、父が一九九四年に亡くなるまで三年間介護したのを機に、高齢者介護をテーマに取材、執筆している。和子さんが二〇〇二年七月、アルツハイマー病と診断されてからは、文字通り寝食を共にして介護している。和子さんは今、介護保険で最重度の要介護5。

 「介護する。思惑どおりに事が運ばない。腹が立つ。怒る。時々、母に手を上げてしまう。自己嫌悪。いつまで経(た)っても反省と後悔ばかり。進歩がない」

 読み返して、あらためて感じるのが語り口の赤裸々さ。背景には認知症や介護の現実を知ってほしいという願いがある。

 母の下着を買うため足を運んだスーパーの女性下着売り場で赤面したことなどは、男性ならではのエピソード。やがて母の症状は進み、感情の起伏が激しくなる不穏に苦慮し、一食に一時間半はかかる食事の介助に手を焼く。さらに、おむつ交換、摘便、床ずれ予防の苦労や自らの老いへの不安…。

 それでも介護を続けるのは、若いときに好き放題をさせてもらい「母にあまりに多くの恩があるからだ」と語る。介護中心の生活。それだけに、母に神経に障る行為をされると反動が大きくなる、ともいう。

 「介護者心理というのはアンビバレント(相反する感情が同時に存在するさま)以上に複雑に絡まりあっている」「要介護度と介護者の介護力は比例しない」。こんな言葉には説得力がある。

 介護による心身の疲れは深刻だ。虐待など悲劇は後を絶たない。そのため、介護サービスが整った今、「がんばらない介護」を提唱する専門家もいるが、野田さんは当事者として「在宅介護は頑張らないと継続できない」と言い切る。

 一方、深夜でも自宅に駆け付けてくれる看護師のいとこや、理解のあるデイサービス職員、ケアマネジャーら周囲の支えは見逃せない。

 野田さんは「介護は一人ではできない。素直に『助けてほしい』と口にするのは難しいが、この本を読んでサポートを受け入れる気持ちになってほしい」と語っている。

 ミネルヴァ書房刊。四六判、一九二ページ、一六八〇円。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年08月29日 更新)

タグ: 脳・神経介護高齢者福祉

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