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地域医療構想、5圏域で議論開始 病床減に戸惑い、先行き不透明

 団塊の世代が全員75歳以上となる2025年にはどんな医療が求められ、どれだけのベッドが必要か―。病院や市町村などが将来の医療の在り方を話し合う「地域医療構想調整会議」が岡山県内5保健医療圏ごとに本年度から開かれている。超高齢社会に、医療費を抑えながら質の高い医療を提供する体制づくりが狙いだが、病院にとっては病床削減や医療機関の役割分担といった経営の機微に触れるだけに戸惑いもあり、先行きは不透明だ。

 「まさかこんなにベッド数の削減が必要とは。公表された当初は大きな衝撃を受けました」。仲田永造・高梁医師会長が振り返る。

 地域医療構想は県が16年2月に公表した。25年に必要とされる県全体の病床数は16年4月時点より16・5%も少なく、中でも高梁・新見圏域は42・6%の大幅減とされたのだ。

 構想は、過剰となる病床の削減や福祉施設などへの転用だけでなく、退院後の生活を支える在宅医療や介護サービスの充実を求めている。医療機関共存のため、診療科が競合しないよう調整したり医療機器を相互利用したりすることも打ち出している。

 実現へ向け、医師会や市町村、住民などが委員となる調整会議(事務局・各保健所)が設けられ、これまでに各圏域で1、2回の会議が開かれた。

■ 反発の声

 地域医療構想をまとめた県医療推進課は「県に病床削減を強制する権限はなく、医療機関の自主的な努力に委ねている」とするものの、大きな変革を迫るものだけに、医療関係者の中には反発や懸念もある。

 16年6月に開かれた津山・英田圏域(津山市など8市町村)の調整会議では「老人の肺炎や骨折は増えており、構想通りに病床を減らせば行き場のない人が生まれる」「病床削減を大前提にした計画は受け入れられない」と複数の医師が訴えた。

 構想では、各保健医療圏の患者の流出入の実態も明らかになった。流出が多い圏域では人口減少分以上の病床削減が迫られる。

 県南への流出が顕著な高梁・新見圏域の調整会議では「地元で治療できるケースもかなりある。流出を食い止めれば病床削減を最小限に抑えられる」として医療機関と高梁、新見市が連携し、身近なところで医療を受けてもらうよう啓発に力を入れることを決めた。

■ 自助は限界

 調整会議では医師・看護師不足や在宅医療の現状といった入り口論にとどまり、踏み込んだ議論には至っていないのが実情だ。

 真庭圏域(真庭市、新庄村)の調整会議で委員を務める金田病院(同市)の金田道弘理事長は「うちの病院でも病床削減などによる経営の効率化を図ってきたが、自助努力はもう限界。県北では経営が悪化する病院が出ており、共倒れにならない手だてを調整会議で打ち出していくしかない」と今後の議論に期待をつなぐ。

 医療政策に詳しい浜田淳・岡山大大学院医歯薬学総合研究科教授は「医療機関の多くは患者が減っていくことに相当の危機感を抱いている。その思いを披露し地域医療の問題点を共有することが議論の出発点であり、県と市町村は多くの医療機関や住民が本音で話し合える機会を増やしていくべきだ」と指摘する。

 地域医療構想 2014年に成立した地域医療・介護総合確保推進法に基づき、都道府県に策定が義務付けられた。将来の人口推計や患者の流出入の実態などを基に、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の各病床について25年の必要病床数を推計し、保健医療圏ごとに実現を目指す。東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、沖縄の6都府県を除き、必要病床数は減少する見通し。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2017年01月14日 更新)

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