文字 

がんワクチン効果実証 末期患者9人中7人 腫瘍の増殖止まる 岡山大

中山睿一教授

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科の中山睿一(えいいち)教授(免疫学)らのグループが、二〇〇四年七月から〇七年二月まで行った、がんワクチン「CHP―NY―ESO―1」を使った世界初のがん免疫療法の臨床試験結果が二十六日、明らかになった。九人の末期がん患者のうち、七人で腫瘍(しゅよう)の増殖が止まるなど効果がみられ、一時的にがんが消失したケースもあった。目立った副作用はなく、〇八年にも実用化を目指す新たな臨床試験に着手する。

 同グループは「がんワクチンの効果はあった」とする論文をまとめ、最新の米がん治療専門誌で発表した。

 ヒトの体は細菌やウイルスが侵入すると免疫機能が排除しようとするが、自分の細胞が変化したがん細胞は異物と判断されにくく増殖する。

 がんワクチンを投与すると、体内の免疫機能ががん抗原をがんの目印として認識。がん細胞を破壊する「キラーT細胞」とその働きを高める「ヘルパーT細胞」が増殖し、がんを撃退する仕組み。

 臨床試験は、放射線治療や手術など従来の治療で効果がなかった五十―七十代のがん患者九人(食道四人、前立腺四人、悪性黒色腫一人)を対象に実施。二週間ごとに腕に皮下注射し、副作用の有無と免疫反応、腫瘍に対する効果を調べた。

 その結果、九人全員に強い抗体ができ、キラーT細胞とヘルパーT細胞が活性化。うち七人で腫瘍が縮小したり増殖が止まった。数センチあった食道がんが消失し日常生活に復帰できたケースもあった。副作用は一時的に皮膚が赤くなる以外は見られなかった。大阪大外科が食道がん、岡山大泌尿器科が前立腺がん、同大皮膚科が悪性黒色腫の治療を行った。

 中山教授は「ワクチンの効果を高めるメカニズムなども分かってきたが、再発や転移したケースもあり、岡山大でさらに人数を増やして臨床試験を行い、実用化を目指したい」と話している。


大きな一歩

 上田竜三名古屋市立大教授(腫瘍・免疫内科学)の話 がんワクチンの有効性を科学的に実証した意義のある研究成果。克服すべき課題は多いが実用化に向けた大きな一歩だ。


ズーム

 NY―ESO―1 がん細胞と精巣だけにみられるがん抗原の一種で、岡山大の共同研究先であるラドウィック研究所(米ニューヨーク)が発見した。今回のワクチンは、免疫機能ががん細胞を見つけやすくするために、三重大の珠玖洋教授がつくったコレステロールと糖の複合体「CHP」を組み合わせた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年09月27日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ