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遠隔医療 岡山大の先進事例紹介 医師不足、地域格差 対策に期待

「低出生体重児の育児支援」に取り組む大井准教授。画面を通じ、母親とリアルタイムでやり取りする(画面左は梅本さん親子)

検査と同時に岡山大病院に送られてくる心エコーの画像。画像を基に助言する大月講師

 深刻化する医師不足や医療の地域格差の対策に期待される遠隔医療―。携帯電話、パソコンによるインターネット網を活用し、離島・中山間地の診察をはじめ、遠く離れた医療機関同士の連携を容易にする。19、20の両日、岡山コンベンションセンター(岡山市駅元町)で開かれる日本遠隔医療学会学術大会で医師らが報告する先進事例の中から、岡山大が既に実用化している「低出生体重児の育児支援」、「新生児の心エコー(超音波検査)診断ネットワーク」を紹介する。


低出生体重児の育児支援 携帯でリアルタイムに

 「赤ちゃんの顔色は良さそうですね。困ったことはないですか」

 岡山大病院(岡山市鹿田町)の総合患者支援センターで、同大大学院の大井伸子准教授が、パソコン画面を見ながら優しく聞く。画面に映っているのは、病院から約七十キロ離れた真庭市久世で赤ちゃんを抱いた梅本千春さん(36)。赤ちゃんは今年六月に一〇八二グラムで産まれたが、三カ月半で四四二〇グラムまで成長した。

 「特に問題はありません。ほら、こんなに元気です」。梅本さんが笑顔で答え、寝ていた赤ちゃんを画面に近づけた。

 同センターが取り組んでいる「低出生体重児の育児支援」は二〇〇四年十一月、同大病院で出生時の体重が一五〇〇グラムに満たない「低出生体重児」と、その家族を対象に始まった。病院と自宅が遠く離れ、周辺に専門医が少ない離島・中山間地で暮らしていることを条件に現在、岡山、香川、高知県内の四家族が支援を受けている。

 家族は子どもの様子をテレビ電話機能付きの携帯電話で病院に送信。医師や助産師が瞬時に送られてくる動画や静止画を見ながら、リアルタイムでやりとりし対処法を助言する仕組みだ。

 低出生体重児は体の機能が未熟で免疫力も弱く、合併症などさまざまなリスクを抱える。大井准教授によると、出産した母親も育児不安を感じやすいため、退院後に気軽に相談できるよう携帯電話を使った支援策として考えたという。

 高知市の福永明徳さん(38)、真美子さん(34)夫婦も二年前から支援を受けている。予定より二カ月早く出産した双子は当初、一三六〇グラムと、七六〇グラムの低出生体重児だった。「私は岡山市内の出身。高知に頼ることができる親せきがおらず、退院後はとても不安だった」と真美子さん。

 風邪をひいた、熱が出た、ミルクを飲まない―。そんな日常的なことから、体調を崩して下痢をした時には撮影した便の写真を岡山大病院に送信して対処法を聞いたこともある。そんな二人も二歳。すくすく育ち、体重は一〇キロ近くに。

 真美子さんは「最近でこそ連絡する機会は減りましたが、最初のころはひんぱんに相談に乗っていただいた。安心して暮らせるのは、このシステムのおかげだと思う」と、きっぱり言う。

 携帯電話で使用するソフトは大井准教授らスタッフと業者が開発を重ね、年々改良。今春からは携帯電話で相談中に、あらかじめ撮影し保存しておいた写真や動画を送信できるようになった。

 大井准教授は「現在は新生児のケアに限られているが、将来的に在宅で療養している子どもと親のケアにも取り組んでいきたい」と話している。


新生児の心エコー診断ネットワーク 病院間連携し異常発見

 画面に規則正しく拍動する心臓の様子が映し出される。時折赤くなったり、白くなったりする部分が、血流の動きを示しているという。「心エコーという超音波検査の画像診断で、異常をすぐさま見つけ出すことが可能」と、岡山大病院小児科の大月審一講師。

 二〇〇四年六月に誕生した「新生児の心エコー診断ネットワーク」は、同病院が核となり、岡山、広島、愛媛、高知県にある十病院・医院が参加する連携組織。岡山大病院と他の病院を光ファイバーで結び、各病院から送られてくる新生児の心エコーを基に、大月講師らが診断し、手術の必要性などの治療方針を助言する。これまでに約百件の診断実績がある。

 例えば今年九月。生まれたばかりの赤ちゃんで、尿が出ない▽ミルクも飲まない▽泣きやまない―といった異常に母親が気づいたケースでも、主治医のいる岡山県内の病院から、大月講師に心エコーを使った画像診断の依頼があった。

 大月講師は主治医と撮影個所をPHSで話し合いながら、同時に送られてくる画像から、下半身に血液を送る血管の一部が狭くなっているのを見つけた。「すぐ薬を投与してもらい、状態がよくなったところで岡山大病院に搬送して手術を行った。順調に回復しています」と大月講師。

 先天性心疾患の新生児は、百人に一人という比較的高い割合。うち二割が酸素を取り込めなかったり、心臓に穴が開いて血が逆流するなど生命に危険がある重症児だ。

 その際、重要になるのはいかに早く検査し治療を行うかだが、「以前は録画した心エコーの動画を郵送してもらっていたので時間がかかっていた。助けたくても助けられなかった」と大月講師。

 厳しい環境に、追い打ちをかけるのが深刻な小児科医不足。循環器の専門医はさらに少なく、地域によっては正確な診断が難しいケースもあるという。「新生児の心エコー診断ネットワーク」は、医療関係者が「赤ちゃんを救いたい」の一心で立ち上げた組織だ。

 十二月からはメーカーと共同開発した新型の心エコーを使った取り組みがスタートする。胎児の心臓の超音波画像を岡山大病院に送信するシステムで、出産と同時に手術が行えるため、より救命率が高まるという。

 大月講師は「地域によって受けられる医療に差があるのはおかしいが、医師不足を解消することは正直言って難しい。だが、遠隔医療を上手に活用すれば、限られた人的資源を有効に使い、大勢の患者の役に立てると思う」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年10月16日 更新)

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