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リポート2007 人手不足深刻な介護現場 岡山県内 多い離職者、若者も敬遠 低い給与水準、重労働影響 採用難で条件緩和も

高齢者をケアする介護職員。人手不足が深刻化している=岡山市・特別養護老人ホーム宇甘川荘

 超高齢社会を迎え、介護の現場が深刻な人手不足にあえいでいる。厳しい労働実態などから離職者が多く、岡山県内での有効求人倍率はここ5年で4倍以上に上昇。景気の回復で、福祉系の学生らが給与水準の高い他業種に流出する現状もある。国の介護報酬が削減され、施設側も給与引き上げは難しく、若者の“介護職離れ”に歯止めは掛かりそうにない。

 岡山市御津宇甘の特別養護老人施設「宇甘川荘」。介護職員二人が高齢者十人を受け持つ勘定で、入浴介助やおむつの取り換え、介護状況の記録など、分刻みのスケジュールをこなしていく。約三十人の介護職員は、以前は介護福祉士の有資格者のみ採用していた。このところは採用難のため、資格取得を目指すヘルパーなどにまで採用条件を緩和した。

 佐能恵美子施設長は「どの施設もぎりぎりの人数でやり繰りしており、特に夜勤帯は手薄にならざるを得ない。過酷な介護現場の実態を知り、一年もたない若い子も多い。他の施設の引き抜きも目立ち始めた」と嘆く。


他業種に流出

 岡山県福祉人材センターによると、二〇〇六年度の県内の老人ホームやデイケア、ホームヘルプサービスなどでの福祉・介護職の有効求人倍率は三・八一。〇二年度(〇・九六)に比べ大幅に上昇した。一方で就職者が定着しない傾向がみられ、毎年の離職率は20%を超えるという。

 福祉系学部・学科の学生が介護・福祉職以外に就職するケースも目立つ。吉備国際大社会福祉学部社会福祉学科(高梁市)では〇二年度の9%が〇六年度には43%に拡大。川崎医療福祉大医療福祉学部医療福祉学科(倉敷市)でも35%が他業種に流れた。福祉系学部への入学希望者も減少し、入学倍率が十年前の五分の一にまで下がったところもある。

 厚生労働省が今年七月に出した試算によると、全国の要介護認定者は〇四年の四百十万人から、一四年には二百万人以上増加。新たに四十―六十万人の介護職員が必要になるとしており、労働市場がいま以上にひっ迫するのは確実な情勢だ。


難しい改善

 介護職離れの背景にあるのは、重労働に比べて低いとされる給与水準。夜勤や不規則な仕事が続き、介護者を抱えるなどの力仕事や汚物処理などもある。同センターの調べで、大卒の初任給は看護師や保育士などに比べ約一万円低く、五十代介護職女性は「けがをさせたら訴訟となることもある。仕事内容や責任の重さを考えるとあまりに安すぎる」と話す。

 しかし、施設側にとって給与水準の改善は難しい。国は介護保険制度の総費用抑制のため、施設に支払う介護報酬を〇三、〇六年度に4%ずつ切り下げた。介護サービスにかかわる費用は九割が介護報酬でまかなわれるため、ある事業者は「報酬の減少を埋めるため、人件費を切り詰めるしかない」と打ち明ける。

 岡山県老人福祉施設協議会の小林敏隆会長は「報酬が減っても介護水準を落とすことはできず、しわ寄せを受けるのは介護職員。何とか改善しなければ」と危機感を募らせている。



視点

制度危うくする窮状放置

 訪問介護大手「コムスン」のヘルパー水増しによる介護報酬の不正請求問題では、人員基準を満たしていない事業所が次々と発覚し、人手が足りない介護現場の実情が図らずも浮かび上がった。

 一方で、厚生労働省によると、介護福祉士の国家資格を持つ約四十七万人のうち、約二十万人が介護職に就いていない現実がある。厚労省はこうした「潜在介護福祉士」の掘り起こしを図るほか、〇四年にフィリピン、〇六年にインドネシアと、有資格の介護職労働者を受け入れることで合意。ただ、こうした外国からの人材確保は、言葉や生活習慣の壁があり実効性には疑問符が付く。

 介護職の窮状をこのまま放置していては制度の維持がおぼつかない。労働環境改善や適正な賃金の確保のため、社会的な負担増の覚悟も必要ではないか。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年11月23日 更新)

タグ: 介護福祉

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