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がんの中で死亡者最多 肺がん注意

エックス線画像から肺がんを調べる西井院長。がんを克服するには早期発見が重要だ

岡山県の死亡者内訳、岡山県のがん部位別死亡者(グラフ)

ショウジョウバエの幼虫を使い副流煙の影響を調べた実験

 日本人の死因ワーストワンのがんの中でも最も死亡者が多いのが肺がん。年間6万人が命を落とし、その数は現在も増加傾向にある。医療技術の進歩で完治するケースがあるが、自覚症状が現れたときは6割以上が手術不可能とされる。検診、治療の現状、たばこの因果関係などを専門医に聞き、早期発見の重要性について考えてみた。


早期発見が治療の鍵 「熟練した医師による検診を」

 エックス線(レントゲン)画像に映った右肺の一部に、白っぽい影。岡山県健康づくり財団付属病院(岡山市平田)の西井研治院長が画像を指し説明する。

 「これが約二センチの早期がん。専門家でなければ見分けがつかないでしょう」

 患者は七十代の男性。健康診断で影が見つかり、精密検査を受けた。早期発見できたため、胸に小さな穴を数カ所開けるだけの胸腔鏡(きょうくうきょう)手術で病巣を取り除いた。入院は一週間程度で済んだ。

 「二センチ以下で転移がない早期がんは、自覚症状がほとんどない。しかし、放っておけばどんどん大きくなり、次に検査したときは手の打ちようがないほど進行している場合がある。治療は、いかに早く見つけるかにかかっている」と言う。

 肺がんは、がんの中で最も死亡者が多い。岡山県内でも昨年一年間に亡くなったがん患者五千九十三人のうち、肺がん患者は千四十人に上り、十一年連続で死因のトップだった。

 治療の入り口となる検診はまず、エックス線画像検査。その後、気管支鏡などを使ってがん細胞を採取し確定診断。がんと決まれば、進行度によってステージⅠ期からⅣ期に分類する。

 「手術ができるかどうかは、自覚症状が現れ始めるステージⅢ期までに見つけることが目安。たんに血が混じる程度なら十分手術できるⅢAの可能性はあるが、痛みを感じるまで放っておくとリンパ節や骨まで転移しているⅢBやⅣ期の場合が多く手術は難しいだろう」と西井院長。

 手術可能であっても進行度によって方法は異なる。通常は胸の側面を二十―三十センチ程度切り、ろっ骨の間を広げて病巣を摘出する開胸手術を行うが、早期発見の場合は胸腔鏡手術や、病巣に電極針を刺しラジオ波による熱で腫瘍(しゅよう)を焼き切る治療が可能。体への負担も軽い。

 「手術ができなくても抗がん剤や放射線を組み合わせた治療は可能だが完治は厳しい。検診で早期がんを発見した場合、その患者の五年生存率は八割を超えるというデータもある」

 とはいえ、エックス線画像検査も万能というわけではない。がんの位置や大きさによって見えにくいケースもあり、数年に一回はより鮮明に病巣が映る胸部CT(コンピューター断層撮影)による検診を勧める。さらに「喫煙者は発症リスクが非喫煙者に比べ数倍高いので、できれば毎年CT検診を受けてほしい」とアドバイスする。

 「がんは小さければ小さいほど見つけにくい。ぜひ熟練した医師による検診を受けて」と西井院長。呼吸器学会、胸部外科学会、放射線学会が認定する専門医、指導医をホームページなどで調べることも可能だ。

 費用対効果の観点からエックス線画像検診を疑問視する指摘もあるが、同病院が中心となり岡山、新潟、宮城県の医療機関と行った研究報告では、検診を受けた方が受けなかった患者に比べ、肺がん死亡危険率が四割以上低いという結果が得られているという。

 西井院長は「胸部CTは横になるだけででき、気管支鏡検査も最近は薬を使って楽に受けられるようになった。肺がんは早く見つければ治る病気。怖がったり面倒くさいと思わず、きちんと必要な検査を受けてほしい」と話している。


喫煙者の危険度5倍 「副流煙の方に多い有害物質」

 たばこには約四千種類の化学物質が含まれ、そのうち二百種類以上が有害物質とされる。吸いすぎれば、体にさまざまな悪影響を及ぼす。

 血管を収縮させ動脈硬化を引き起こすニコチン、発がん性物質を多く含むタール、全身の臓器や組織を酸欠状態にして心臓の働きを低下させる一酸化炭素…。

 「肺がん患者の七、八割はたばこが原因で、死亡危険度も吸わない人の五倍。健康な肺にとっていかに悪いかお分かりでしょう」と、岡山県健康づくり財団付属病院の西井研治院長。

 肺がんはたばこを吸い始めた時期と、一日どのくらいの本数を吸ったかによってもリスクは変わるという。「未成年の喫煙が問題になっているが一生吸わないのが一番。喫煙者は予防のためにも禁煙を心掛けて」

 西井院長によると、たばこの先から立ち上る副流煙は、フィルターを通して直接吸い込む主流煙よりも有害物質が多く、タールは三・四倍、ニコチンは二・七倍、一酸化炭素は四・七倍に上る。人体への悪影響は科学的な実証こそできていないが、病院、会社、集会場など大勢が集まる場所では「禁煙」が一般的だ。

 そんな中、岡山大大学院の根岸友恵准教授(遺伝子毒性科学)らは二〇〇四年、副流煙がもたらす生物への影響について、興味深い研究を行っている。

 「たばこの煙を充満させた箱形の装置の中で、ショウジョウバエの幼虫を飼い、成虫になるまでの生存率を調べた」と根岸准教授。ハエの種類によって違いはあるものの、研究では吸わせた時間が長いほど生存率は低下したという。

 「中には三時間吸わせると生存率が80%、六時間だと30%にまで落ち込んだケースもあった。この時、生き残った成虫が産んだ卵のふ化率も、副流煙を吸っていないショウジョウバエに比べ六割にとどまった」

 根岸准教授は「生物といってもショウジョウバエでの研究。この結果がすぐ人間に当てはまるものではない」と前置きした上で、「副流煙が何らかの影響を与えていることは確かだと思う。今後も研究を進めていきたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年11月24日 更新)

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