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大動脈瘤 開腹避け負担減「ステントグラフト」 公的保険適用 岡山・榊原病院「入院期間、従来の半分に」

人工繊維の血管と金属の網を組み合わせたステントグラフト

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト手術後のイメージ図(榊原病院提供)

吉鷹秀範副院長

 心臓から血液を運ぶ大動脈が、おなかでこぶ状に膨らみ、破裂すれば命にかかわる腹部大動脈瘤(りゅう)。体への負担が大きい開腹手術を避け、太ももからこぶまで「ステントグラフト」という筒状の器具を注入し破裂を防ぐ治療が注目されている。今春の公的医療保険適用以来、既に十五例の手術を実施した心臓病センター榊原病院(岡山市丸の内)の吉鷹秀範副院長(心臓血管外科)は「高齢者らにとって負担が軽く、入院も従来の半分の一週間程度」と効果を語っている。

 「(開腹する)人工血管の手術ができないと聞き、もう寿命かと一時は覚悟を決めていた。新しい治療に巡り合え命拾いした感じ」。高松市の男性(78)は十一月下旬、ステントグラフト手術後半年の検査で榊原病院を受診し笑顔を見せた。週三、四日は自宅周辺を一時間近く散歩できるまで体力は回復した。

 四年前、大腸がんの手術を高松市内の病院で受けた際、おなかの大動脈に二カ所のこぶが見つかった。一カ所はその後、人工血管に置き換える手術を行ったが、もう一つは直径二・五センチと小さく、経過を観察していた。

 今年三月、こぶが五センチ近くまで大きくなり破裂の恐れが高いと診断された。だが、過去の手術の影響で臓器が癒着しており、開腹は難しい。主治医から吉鷹副院長を紹介され五月、ステントグラフト手術を受けた。

 太ももを三~四センチ切開し、カテーテル(細い管)を動脈に挿入。こぶの中まで進めると、折り畳んでカテーテルに入れていたステントグラフトを広げて血管に固定。これで血液がこぶの中へ流れず、破裂の恐れはなくなる。手術は全身麻酔で二時間足らず。妻(77)は「以前の人工血管の手術は六時間かかったのに、今回は早く終わり驚いた」と言う。

 腹部大動脈瘤は「いったん破裂すると救命できる患者は二~三割」(吉鷹副院長)という病気。破裂前に治療するのが重要だが、人工血管に換える手術は臓器が癒着していたり、肺気腫などで呼吸器が弱り全身麻酔ができない患者には難しい。また、おなかを十センチ以上切開するため、社会復帰にも時間がかかる。特にお年寄りは回復が長引き、その間に寝たきりになる心配もある。

 同病院でステントグラフト手術を受けた患者は五十~八十代と高齢者が多い。「いずれも大きなトラブルはなく、術後は良好」と吉鷹副院長は語る。

 ただ、ステントグラフトもすべての患者に使えるわけではない。大動脈などの形や大きさが器具に合わなかったり、曲がりくねってカテーテルが通りにくい場合は難しいという。

 また、ステントグラフトを血管に密着させ血液の漏れをなくすには、担当する医師にも高い技術が求められる。米国で十年以上前から行われている治療だが、国内では歴史が浅く熟練した医師はまだ少ない。長期的な治療成績も不明だ。

 日本血管外科学会などは今夏、実施医療機関と医師の基準を設け認定を始めた。実施医の認定を受けた吉鷹副院長は「ステントグラフト手術は胸部大動脈瘤でも近く臨床試験が始まる見通し。破裂後のこぶの治療にも有望で、将来は入院期間を二泊三日まで短縮できるだろう」と治療の広まりを期待している。


ズーム

 大動脈瘤 心臓につながる大動脈が動脈硬化などのため、こぶのように膨らむ病気。自覚症状はほとんどなく、健康診断などで見つかることが多い。発生部位により胸部、腹部、胸腹部大動脈瘤などに分類される。大動脈の直径は通常2~3センチ前後だが、胸部は瘤の大きさが6センチ、腹部は5センチを超えると破裂の危険があるとされ、手術による治療が必要になる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2007年12月08日 更新)

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