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がん患者の精神的ケア アドバイスより「傾聴」 佐伯・広島大准教授 岡山で講演

講演する佐伯准教授

 今や日本人の二人に一人が一度は患うというがん。患者への病の告知も一般的になった。その時、家族ら周囲は患者をどう支えればいいのか。患者の精神的ケアに詳しい佐伯俊成・広島大病院准教授(総合診療科)が十六日、岡山市で講演し、「気の利いたアドバイスより、まずは患者の話をよく聞こう」と、心の悩みに耳を傾ける傾聴の効用を説いた。

 佐伯准教授によると、患者は告知後、「ショックの時期」「心身不安定な時期」をへて、二週間―三カ月で現実的な判断ができる「適応の時期」に至るのが普通。ただ、多くの身体症状がある▽家族内に問題を抱えている▽一人暮らしなど周囲の援助が期待できない▽主治医に不満がある▽心配しやすい性格―などの場合、ストレス反応を示しやすく注意が必要だ。

 「がんの診断や再発、転移など悪い知らせを聞くと百人に五、六人は重いうつが出る。うつ病は治療でき、恐れる必要はないが、放っておくと自殺する例もある」。がん患者の自殺率は高く、一般の倍に上るという。うつ病の治療歴があったり、不眠やそれまでなかった表情、行動の変化、気分の落ち込みを訴える患者は、早めに精神科医へ相談するよう勧めた。

 周囲が患者を援助する際の基本は、情報をもつ▽患者のニーズを整理する▽実際的、ささいなことから始める▽複数の人で行う―など。特に「傾聴する、話をよくよく聞いてあげることがとても大事」と強調。「患者と話をするときの三原則」を示した=表。

 限界はある。「周囲ががんの知識をどれだけ蓄えても、患者の気持ちを百パーセント理解することはできない」という。謙虚さは必要だ。それでも「気持ちを分かりたいと思いながら話を聞くこと自体が患者に対する最高の援助になる。百パーセント理解するのが目標でない。分かろうとすることが大事」。それが患者の心の治癒力を高めるのにつながるという。

 患者だけでなく家族自身の精神的負担も大きい。広島大病院で乳がん手術を受けた患者の家族を調査したところ、夫の四割、子どもの五割に軽症以上のうつがあったといい、「家族は第二の患者」と位置づけた。

 上手な対処法はあるのか。佐伯准教授は「究極のストレス解消法は眠ること。一に睡眠、二に水分、三に食事、四に話すことを心掛けてほしい」とアドバイスした。

 講演はボランティア団体・がんの悩み電話相談室おかやまと岡山県備前県民局が主催。約二百三十人の市民が聴き入った。


患者と話をするときの3原則

①話をよく聞く

 大きくうなずきながら

 何度もあいづちを打つ

 ときどき視線を合わせて、目を見ながら話す

 込み入った話のときにはメモを取りながら

②話に同調する

 話を否定しないで、まずは肯定して

 さらにくわしく話してもらえるよう、ペースは患者に合わせる

 声の大きさを患者に合わせる

 笑顔には笑顔で、深刻な表情にはこちらも真剣な表情で

③返事を用意せず白紙の状態で聞く

 「がんばってね」とさらに励ますのでなく、「すごいね」と相手のがんばりを認め、ねぎらい、言葉に出してほめる

 がんと闘っているのをことさら意識することなく、元気なころとなるべく同じように話す

 相手が黙ってしまったときには、こちらも話をやめ同じように黙ってみる

 (佐伯准教授による)


 さえき・としなり 広島大医学部卒業後、同大病院精神科神経科講師などをへて、2004年から総合診療科助教授(現・准教授)。専門は心身医学、精神腫瘍(しゅよう)学、緩和ケア。2006年9月~07年5月、本紙健康面に「医師の目・人の目 心という治癒力 サイコオンコロジーへの招待」を連載。47歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年02月23日 更新)

タグ: がん健康

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