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患者の栄養状態改善を チーム導入進む 岡山県内の病院 スタッフ確保課題

正面に映したカルテを基に、患者に行う栄養療法を話し合うNSTのメンバー=岡山大病院

 脳梗塞(こうそく)やがんなどの病気で食事が取れなくなった患者の栄養状態を、医療スタッフが連携して改善する「栄養サポートチーム(NST)」の導入が、岡山県内の病院で広がっている。栄養をつけて抵抗力を高めることで、回復を早めて社会復帰につながる効果がある一方、十分な活動を展開するためのスタッフ確保が課題となっている。

 NSTは一九七〇年代に米国で生まれ、日本では三重県の病院が九八年に導入したのを皮切りに広がった。歯科を含む診療科の壁を超えて医師や看護師、管理栄養士らが連携。患者に必要な栄養を与えることで免疫力を高め、院内感染のリスクを減らしたり入院日数の短縮を図る。

 日本静脈経腸栄養学会が認定したNST活動に取り組む県内の病院は、二〇〇四年は三施設だったが〇七年は二十九に。日本医療機能評価機構の評価項目に加わったことなどを背景に急増している。

 認定病院の一つ、岡山大病院(岡山市)は週に一度、チームの会議を開く。臨床検査技師が調べた栄養状態のデータ、カルテを見ながら患者の病態に応じた栄養療法を決める。

 現在、サポートする一人が、パーキンソン病の七十代女性。筋力が衰え食べ物をのみ込む力もなくなっていた。一日に千三百キロカロリーが必要だが、点滴では三百キロカロリーしか補えず、体重は三十数キロにやせていた。

 管理栄養士の坂本八千代・臨床栄養部副部長は消化器外科医の協力を得て、体外から胃に開けた穴に管を差し栄養剤を直接注入する「胃ろう」を利用した栄養療法を開始。口の中の細菌が気管に入って肺炎を起こすのを防ぐため、歯科衛生士が歯磨きなどの口腔(くう)ケアも実施した。

 女性は入院時に比べて表情が明るくなり、会話も増えて順調に回復。今後は、言語聴覚士による食べ物をのみ込む訓練を行う。「口から食べることが栄養を取る一番良い方法で、社会復帰への近道。栄養状態が悪ければ、どんな治療も効果がない」と坂本副部長。

 認定病院の中には、入院日数が二日程度短縮したり、院内感染を起こした症例が減ったところもあるという。

 ただ、NSTを取り巻く環境は厳しい。多くの医療スタッフがかかわり栄養療法を行っても、患者一人につき一日百二十円の診療報酬しかない。

 手術の前後など、体力確保のため栄養療法が必要な患者全員を対象に栄養療法を行うためには、十分なマンパワーも必要となる。

 岡山協立病院(岡山市)は週に患者二、三人をサポートするだけで精いっぱいといい、板野靖雄内科医長は「『患者の喜ぶ顔が見たい』というスタッフのボランティア精神だけで活動が支えられている」と実情を話す。

 退院後のサポートも課題。岡山市内の病院で二〇〇〇年、県内初のNSTを立ち上げた梶谷伸顕医師は「栄養状態が再び悪化して病院に戻るケースも多い。地元の開業医らと連携し、在宅医療となった患者のフォローが必要」と指摘している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年04月05日 更新)

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