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(7)懸け橋 患者の思い ドナー家族に
移植医療に欠かせない職業がある。臓器移植コーディネーター。ドナー(臓器提供者)家族らと接し、臓器が待機患者に適切に届くよう、さまざまな調整をするのが最大の使命だ。
岡山県臓器バンク(岡山市北区大元駅前)の安田和広さん(49)はこの道21年のベテラン。県内を1人でカバーしている。
ドナーはいつ何時発生するか分からない。24時間態勢で病院に駆け付けるため、携帯電話を肌身離さず持っている。
病院に到着すると、まずはドナーの状態を確認後、家族への説明を始める。同意を得られ、承諾書にサインをもらうと、病院スタッフと連携を図りながら、全国からやって来る摘出チームの受け入れ準備に着手。臓器は一分一秒でも早く届ける必要があり、チャーター機の手配など綿密な輸送計画も練り上げていく。
脳死ドナーの場合、家族への説明から臓器摘出までに要するのは平均3日。バッグに着替えを詰め、病院に泊まり込むことも多い。「仕事は過酷だけど、命をつなぐ仕事に携われている。そのやりがいはある」と話す。
転身
安田さんがコーディネーターになったのは1996年4月。臓器移植法が施行される1年半前のことだった。
それまで病院のソーシャルワーカーとして、腎不全に苦しむ患者が何年も透析に通う姿を日常的に見ていた。ある日、患者から移植治療の相談を受け、医師主催の勉強会に参加するようになった。移植患者が元気になることを見聞きし「画期的な治療を広めよう」と転身した。
移植医療の黎明(れいめい)期から携わる安田さんにとって、コーディネーターは単なる調整役ではない。それ以上の役割があると感じている。
活動を始めて間もないころ、1組の移植手術に携わった。術後、移植を受けた患者の様子を伝えるためドナー家族を訪ねると「もう来ないで」と言われた。
以来、そのドナー家族に電話できなかったが、移植を受けた患者から「10年間元気に過ごせたことをドナーに報告したい。花を供えてもらえないか」と依頼があった。思い切ってドナー家族に連絡すると、ずっと移植患者のことが気になっていたと打ち明けられた。
かけがえのない命を失ったドナー家族は悲嘆に暮れる一方で、移植を受けた患者が元気で過ごしていることに救いを感じる。両者をつなぐ懸け橋になることがコーディネーターの本質だと実感した。
担い手育成
藤田保健衛生大(愛知県豊明市)の朝居朋子准教授(51)は、2016年3月までコーディネーターとして約80人の臓器提供に関わった。
面談室で向き合う際には、ドナー家族の座る位置や表情、体の向きまで観察する。医師からどう説明を聞いているかを尋ね、正しく病状を理解しているかも確認する。提供する、しないという意思決定を最大限支援するため、家族の考えを把握することに全力を注ぐ。
予期せぬ病気、交通事故…。つい先ほどまで普通に会話していた人間が、さまざまな理由でドナーになる。家族は身内を失う深い悲しみと混乱の中で、時には感情をむき出しにしてくる。
「コーディネーターは体力的にも精神的にも過酷」と朝居准教授は言う。それだけに数年でやめていく若手も多く、担い手不足が懸念されている。安田さんのように長年続けられるケースはごくわずかだ。
脳死移植は増加傾向にある。国民に提供への理解が一層広まり、ドナーがさらに増えれば「コーディネーターの育成、スキルアップは欠かせない」と朝居准教授。同大には国内初となる大学院の修士課程「臓器移植コーディネート分野」が16年4月に開設され、医療現場からも熱い視線が注がれる。自身の豊富な経験を伝えながら、一人でも多くの学生が巣立つことを願っている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。
岡山県臓器バンク(岡山市北区大元駅前)の安田和広さん(49)はこの道21年のベテラン。県内を1人でカバーしている。
ドナーはいつ何時発生するか分からない。24時間態勢で病院に駆け付けるため、携帯電話を肌身離さず持っている。
病院に到着すると、まずはドナーの状態を確認後、家族への説明を始める。同意を得られ、承諾書にサインをもらうと、病院スタッフと連携を図りながら、全国からやって来る摘出チームの受け入れ準備に着手。臓器は一分一秒でも早く届ける必要があり、チャーター機の手配など綿密な輸送計画も練り上げていく。
脳死ドナーの場合、家族への説明から臓器摘出までに要するのは平均3日。バッグに着替えを詰め、病院に泊まり込むことも多い。「仕事は過酷だけど、命をつなぐ仕事に携われている。そのやりがいはある」と話す。
転身
安田さんがコーディネーターになったのは1996年4月。臓器移植法が施行される1年半前のことだった。
それまで病院のソーシャルワーカーとして、腎不全に苦しむ患者が何年も透析に通う姿を日常的に見ていた。ある日、患者から移植治療の相談を受け、医師主催の勉強会に参加するようになった。移植患者が元気になることを見聞きし「画期的な治療を広めよう」と転身した。
移植医療の黎明(れいめい)期から携わる安田さんにとって、コーディネーターは単なる調整役ではない。それ以上の役割があると感じている。
活動を始めて間もないころ、1組の移植手術に携わった。術後、移植を受けた患者の様子を伝えるためドナー家族を訪ねると「もう来ないで」と言われた。
以来、そのドナー家族に電話できなかったが、移植を受けた患者から「10年間元気に過ごせたことをドナーに報告したい。花を供えてもらえないか」と依頼があった。思い切ってドナー家族に連絡すると、ずっと移植患者のことが気になっていたと打ち明けられた。
かけがえのない命を失ったドナー家族は悲嘆に暮れる一方で、移植を受けた患者が元気で過ごしていることに救いを感じる。両者をつなぐ懸け橋になることがコーディネーターの本質だと実感した。
担い手育成
藤田保健衛生大(愛知県豊明市)の朝居朋子准教授(51)は、2016年3月までコーディネーターとして約80人の臓器提供に関わった。
面談室で向き合う際には、ドナー家族の座る位置や表情、体の向きまで観察する。医師からどう説明を聞いているかを尋ね、正しく病状を理解しているかも確認する。提供する、しないという意思決定を最大限支援するため、家族の考えを把握することに全力を注ぐ。
予期せぬ病気、交通事故…。つい先ほどまで普通に会話していた人間が、さまざまな理由でドナーになる。家族は身内を失う深い悲しみと混乱の中で、時には感情をむき出しにしてくる。
「コーディネーターは体力的にも精神的にも過酷」と朝居准教授は言う。それだけに数年でやめていく若手も多く、担い手不足が懸念されている。安田さんのように長年続けられるケースはごくわずかだ。
脳死移植は増加傾向にある。国民に提供への理解が一層広まり、ドナーがさらに増えれば「コーディネーターの育成、スキルアップは欠かせない」と朝居准教授。同大には国内初となる大学院の修士課程「臓器移植コーディネート分野」が16年4月に開設され、医療現場からも熱い視線が注がれる。自身の豊富な経験を伝えながら、一人でも多くの学生が巣立つことを願っている。
(2017年11月25日 更新)