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冬の感染症どう対処? 岡山県内の専門医に聞く

インフルエンザウイルスとの接触が避けられない場合、治療薬の予防投与も考えるよう勧める寺田喜平教授

ノロウイルス感染による高齢者や乳幼児の脱水症状に注意を呼び掛ける岡山市立市民病院・今城健二副院長

手洗いのポイント

上野優子岡山市民病院統括副看護師長

 インフルエンザ、ノロウイルスによる感染性胃腸炎など、冬に流行する感染症がピークを迎えている。今季の流行の特徴、予防のためのワクチン接種や手洗い、発症した場合の治療法や対処法について、岡山県内の専門医に尋ねた。

インフルエンザ 高リスクには予防投与 川崎医大・寺田喜平教授

 岡山県は昨年12月7日にインフルエンザ注意報を発令し、本格的に流行期に入った。県内84医療機関の患者数集計によると、倉敷市や備中保健所管内で12月下旬から患者が急増して次第に県内全域に拡大し、今年1月25日には警報に切り替わった。

ワクチン

 今季確認されているウイルスの大半は、9年前に「新型インフルエンザ」と呼ばれたパンデミック2009(AH1pdm09)型。当時は従来の季節性インフルエンザより重症化しやすいのではないかと心配されたが、感染症・予防接種を専門とする川崎医科大学小児科の寺田喜平教授によると、「今季のインフルエンザの症状は例年と全く同じ」で、同様に対処すればよい。

 今季製造されたワクチンにもパンデミック2009の株が含まれており、効果が期待できる。ただし、製造過程の混乱で工程に遅れが出て、当初は供給不足が懸念された。寺田教授は「13歳未満には2回接種が推奨されるが、1回に制限した医師もいるのではないか。今季は流行が早まっており、ワクチン供給状況と関係があったかもしれない」とみる。

 インフルエンザは一つの型にかかって治っても、他の型にかかる可能性がある。既にB型ウイルスも流行し始めており、四つの型に対応するワクチンは、何度もかからないためにも接種が勧められる。

治療薬

 治療薬は、内服薬のタミフル、吸入薬のリレンザなど、主に4剤が使われる。10代の子どもたちを中心に、薬の服用後、幻覚を訴える、突然走り出す、飛び降りる―など、異常行動の例が報告されているが、寺田教授は「インフルエンザ自体の症状によるもので、薬の服用の有無にかかわらず、注意しなければならない」と指摘する。

 寺田教授も2階から飛び降りた子どもを診察したことがあるが、薬を服用していなかったのに異常行動が出ていた。発熱中は、容易に部屋の外に出られないようにするなどの対策を取り、できるだけ一人にしないことが肝心だ。

咳エチケット

 また、重症化のリスクが高い高齢者や、他の疾患で免疫抑制治療を受けている患者らは、インフルエンザ患者との接触後、あらかじめ治療薬を服用しておく「予防投与」も考えられる。同居している家族が発症した場合など、ウイルスが体に入ってきても増殖するのを抑え、発症を予防することができる。

 その際、医師によっては通常の治療で使う量の半量を処方されることがあるが、寺田教授は「半量では増殖を抑える効果が弱い。治療と同量を服用すべき」と注意する。

 感染を広げないために、咳(せき)エチケットも重要だ。咳が出る時には、マスクで口と鼻を覆うか、ティッシュやハンカチを口と鼻に当てる。発症後5日間かつ解熱後2日間休むことと、咳エチケットを守っていれば、「インフルエンザの流行をかなり減らせるだろう」と寺田教授は話している。

ノロウイルス 急激な脱水症状に注意 岡山市民病院・今城健二副院長

 ノロウイルスは感染力が強く、激しい下痢や嘔吐(おうと)を引き起こす。特にお年寄りや乳幼児は脱水症状に陥りやすく、重症化するケースもあるため注意が必要だ。感染の予防には丁寧な手洗いや食品の加熱を徹底することが求められる。岡山県内では、今季はまだノロウイルスなどの感染性胃腸炎が流行する状況にはないが、1月中旬からやや患者が増加傾向を示している。

経口と飛沫

 岡山市立市民病院の今城健二副院長によると、感染経路は主に経口感染と飛沫(ひまつ)。ウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝を生あるいは十分に加熱せずに食べる▽感染者が調理や配膳を行った食事、触ったトイレのドアノブなどを介してウイルスが口に入る▽感染者のふん便や嘔吐物に触れたり、それらが周囲に飛び散った際の飛沫や乾燥後に舞い上がったほこりを吸い込んだりする―ことが挙げられる。

 感染から発症までの潜伏期間は24~48時間。嘔吐や下痢といった症状のほか、37~38度程度の発熱がみられることも多い。人によっては軽い風邪に似た症状で終わる場合もある。

対症療法

 特効薬はなく、通常は整腸剤の処方など症状を和らげる対症療法が行われる。

 「症状は1、2日ほど続いて治まる。ほとんどの方は経口補水液などで水分補給しながら、家で安静にしておくだけで大丈夫」と今城副院長。ただし、食欲が減退し、お年寄りや乳幼児は急激な体力低下や脱水症状を起こす可能性がある。症状がひどい場合は医療機関を受診し、点滴治療などを受ける必要がある。

 自己判断で市販の下痢止めを服用するのはよくない。今城副院長は「早く治すには、ウイルスを体の外へ排出してしまうことが肝心。安易に下痢止めを飲んでしまうと、排出を妨げて症状を長引かせかねない」と警告する。

拡大防止

 職場や学校、福祉施設などでは、吐瀉物(としゃぶつ)の処理やウイルスに汚染された場所の消毒を適切に行わないと、大勢に感染が広がる恐れがある。今城副院長は「殺菌は消毒用アルコールよりも、次亜塩素酸ナトリウムを成分に含む塩素系漂白剤が効果的。作業の際はマスクや使い捨てのビニール手袋を着用し、汚れを拭いた紙や雑巾はビニール袋などに密閉してから捨ててほしい」とアドバイスする。

 感染予防策の基本は手洗いとうがい。「特に調理や食事の前、トイレの後、帰宅時などには必ず手洗いを。清潔なタオルで手を拭くことも忘れずに」と今城副院長は強調する。調理は食品の中心部が85~90℃になるように加熱し、90秒以上保つことが大切だ。

手洗い 洗い残しなく 上野優子・岡山市民病院統括副看護師長

 インフルエンザやノロウイルスなどの感染症を予防するため、家庭や職場、学校などでできる一番の対策は手洗いだ。洗い残しが多い指の股や指先、親指などをどのように洗えばよいのか、感染管理認定看護師の上野優子・岡山市立市民病院統括副看護師長に、実演しながらポイントを教えてもらった。

(1)手を水でぬらした後、せっけん(できれば液体タイプが望ましい)をしっかりと泡立てる。時計や指輪はあらかじめ外しておく

(2)両手をこすり合わせるように手のひらや甲を洗う。特に指の股や付け根は念入りに

(3)親指も洗い残しが多い。反対の手で握り込み、ねじるようにして洗う

(4)指先は反対の手のひらにこすりつけるようにして洗うとよい

(5)手首を洗ったら、流水でしっかりすすぐ。拭くときは1人ずつ別のタオルを使おう

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年02月06日 更新)

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