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(2)進化する治療薬 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院 内科部長 垂水研一

治療前の直腸炎型潰瘍性大腸炎

メサラジン坐剤治療で寛解導入に成功した

ステロイド抵抗性のクローン病の小腸縦走潰瘍

抗TNFα抗体製剤投与で縦走潰瘍は瘢痕(はんこん)化した

垂水研一内科部長

 炎症性腸疾患(IBD)の潰瘍性大腸炎とクローン病は原因不明の慢性炎症疾患です。完治は困難であり、重症化すれば外科的治療(腸切除)が必要になることもあります。しかし、適切な治療を続けることにより、症状を抑え、日常生活に支障がない状態(寛解)を維持することは不可能ではありません。

 潰瘍性大腸炎とクローン病が全く異なる消化管疾患であることは、前回お話ししましたが、ともに自己免疫疾患であるため、その治療薬は共通するものが多くあります(表参照)。今回は、最近目覚ましく進歩しているIBDの治療薬についてお話しします。

 ▼メサラジン(5―アミノサリチル酸)製剤

 メサラジンは主に大腸病変を持つ軽症~中等症のIBDの第一選択薬です。1950年代に開発され、現在も使われている息の長い薬剤です。大腸粘膜に浸透し、炎症を鎮める腸粘膜の塗り薬的な働きをします。有効成分のメサラジンを大腸まで送り届けることが重要で、そのために工夫された数種の製剤が登場しています。

 メサラジンはIBDを寛解へ導く「寛解導入」の治療として用いられ、さらに「寛解維持」の治療にも使われます。潰瘍性大腸炎の直腸、S状結腸の病変に限っては、経肛門的に投与する注腸製剤(液状のメサラジン)や坐剤(ざざい)も使われます。

 ▼栄養療法

 特に小腸病変を持つクローン病では、通常の食事を制限する栄養療法を行うことがあります。食事制限で不足する栄養素は、病状を悪化させにくい特別な栄養剤で補います。成分栄養剤と消化態栄養剤(脂肪の含有量が極めて少なく、アミノ酸や低分子ペプチドで構成)、または半消化態栄養剤(植物性のタンパク質と脂質で構成)があります。

 潰瘍性大腸炎ではクローン病ほど栄養療法の効果がみられないため、一般的には行いません。潰瘍性大腸炎、クローン病ともに、重症例では絶食で消化管の安静を保つ必要があり、全ての栄養補給を高カロリー点滴で行います。この場合は原則、入院が必要です。

 ▼副腎皮質ホルモン剤

 副腎皮質ホルモン剤のステロイドは免疫を抑制し、強力に炎症を抑える薬剤で、IBDの寛解導入薬として大変有効です。中等症以上の活動性のある状態の患者さんや、メサラジン、栄養療法で効果がなかった場合に用います。経口剤と注射剤があり、直腸からS状結腸に病変を持つ潰瘍性大腸炎には、経肛門的に投与する坐剤や注腸製剤(液状、泡状のステロイド)も使われます。

 ステロイドは寛解導入治療には有効ですが、長期になると多くの副作用が生じてしまうため、寛解維持治療には適しません。近年、副作用の少ないステロイドであるブデソニドが開発され、より治療しやすくなってきています。

 ▼免疫調節剤

 ステロイドとは異なる働き方で免疫を抑制し、調節する薬剤で、タクロリムスとアザチオプリンがあります。タクロリムスはステロイドで寛解導入できない「ステロイド抵抗性」の潰瘍性大腸炎に用いられる経口剤です。速効性がありますが、厳密な血液中の薬剤濃度測定が欠かせません。またステロイドと同様、寛解維持には用いられません。

 アザチオプリンはステロイドを減量、中止することで再燃してしまう「ステロイド依存性」のIBDに使われる経口剤です。速効性はありませんが、寛解維持療法として長期間用いることができる薬剤です。

 ▼生物学的製剤

 IBDでは、サイトカインという炎症を引き起こす物質が過剰に産生されています。サイトカインの働きを抑え、炎症を沈静化させる薬剤として、近年、生物学的製剤が使われるようになりました。マウスや人間の抗体から遺伝子工学技術を用いてつくられ、がんや自己免疫疾患の治療薬として活用されています。

 現在、IBDに使われる生物学的製剤としては、標的とするサイトカインの種類によって、抗TNFα抗体製剤と抗IL―12/23p40抗体製剤があります。抗TNFα抗体製剤は、潰瘍性大腸炎とクローン病で、ステロイド抵抗性または依存性を示す難治性の患者さんに用います。点滴製剤のインフリキシマブ、皮下注射製剤のアダリムマブとゴリムマブ(潰瘍性大腸炎のみに適応)があり、寛解導入だけでなく寛解維持にも用いることができます。

 2002年から使われるようになった抗TNFα抗体製剤には、それまでの治療薬を超える優れた寛解導入・寛解維持の効果が認められ、難治性IBDの治療を大きく進歩させたと言われています。

 また、抗IL―12/23p40抗体製剤のウステキヌマブは、昨年からクローン病に使えるようになった新しい生物学的製剤です。まだ経験患者は少ないですが、抗TNFα抗体製剤が効果を示さない難治性クローン病患者さんの治療薬として期待されています。

 今後も研究の進歩により、新たな仕組みの薬が登場することが予想されます。患者さんの病状を十分に把握し、有効性の知見が蓄積されている既存の薬剤と新しい薬剤を上手に使いこなすことが大切です。

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 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(086―485―1755)

 たるみ・けんいち 川崎医科大学卒。2015年よりチクバ外科・胃腸科・肛門科病院勤務。医学博士。日本消化器内視鏡学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本消化管学会胃腸科専門医、日本内科学会総合内科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年02月06日 更新)

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