“空飛ぶ救急車”ドクターヘリ 川崎医科大付属病院を訪ねる
山あいや離島など、医療機関が不足する地域で重症患者が出たときに、威力を発揮する“空飛ぶ救急車”ドクターヘリ。医師を現場まで運び、応急処置後に都市部の大病院に搬送する。中四国で唯一、ドクターヘリ事業を手掛ける川崎医科大付属病院(倉敷市松島)を訪ね、フライトドクターらに現状を聞いた。
要請から30分で治療も
川崎医科大付属病院ドクターヘリ待機室に、倉敷市消防局からの緊急電話が鳴り響いた。
▽PM2:58―要請
「出動要請ですね。どんな状況ですか?」
ヘリ運航会社の担当者が、事故現場や患者の状態を聞き取る。機長と整備士は部屋を飛び出し、ヘリポートへ向かった。
情報はすぐに同病院高度救命救急センターにも届き、フライトドクターとナースも走り始めていた。
▽PM3:02―離陸
「ドクターヘリ、エンジンスタート」。ヘリは時速200キロを超える速度で約17キロ先の倉敷市内の現場へ。
▽PM3:08― 到着
臨時へリポートの運動場に着陸。患者は50代男性。草刈り機で左ふくらはぎの一部を断裂。医師は止血など応急措置を行った。
▽PM3:28―病院
患者は医師とドクターヘリに乗り、同病院高度救命救急センターに。歩行に障害が出てしまうため、整形外科医が消毒後に縫合。治療は出動要請からわずか30分で終了した。
◇ ◇
フライトドクターの1人で、川崎医科大付属病院救急科の荻野隆光准教授(53)が、必ず身に付けているバッグがある。中には気管切開セット、ガーゼに加え、ゴーグルや革手袋。「(事故現場では)ガラスの破片などから身を守るためにも、あらゆる事態を想定して急行する」。過酷な救急現場が目に浮かぶ。
ドクターヘリ機内は、まるで救命救急センター。患者を寝かせるストレッチャー、心電図や酸素ボンベ、除細動器なども装備。「これが大切」とフライトナースの吉峯由香さん(32)が手に取って見せてくれたバッグには点滴セットにガーゼ、縫合用の糸と針、胸に血がたまった時に使う管が入っていた。
1分1秒を争う処置が必要なだけに入念な準備が欠かせない。
年間450件出動 高コスト、「夜間」が課題
ドクターヘリは1999年、厚生労働省が川崎医科大付属病院などに全国で初めて試験配備。現在13道府県に14機あり、主に医師が患者の元に駆け付ける「現場出動」と、地元病院から都市部の病院に運ぶ「病院間搬送」で年間5000件を超える出動がある。
同病院では2001年4月から本格運航を始め、これまでの総出動件数は3039件。出動件数は年間450件前後で推移し、07年度は過去最高の475件に上る。
運航時間は原則午前9時から日没30分前。岡山県内をはじめ広島、香川、兵庫県の一部をカバーする。
「県北だと最寄りの病院や川崎医科大まで救急車で1時間以上かかるが、ヘリだと30分以内で行ける」と同病院救急科の荻野准教授。
近年は学校グラウンドや公園など使用環境の整備も進む。「自治体や各消防本部の協力で、臨時ヘリポートが増えている」と荻野准教授。01年3月末は152カ所だったが、現在は556カ所と約4倍に。「ヘリポートが増えればそれだけ現場が近くなり、救命率も高まる」
最大の課題は「コスト」(荻野准教授)だ。操縦士や整備士の人件費、燃料費など運航に関わる維持費は年間約1億6000万円。国と県が折半しているが、補助金は定額のため、現在の仕組みだと出動件数が増えれば赤字になる。また、実施していない夜間フライトも、要望が多いだけに検討課題と言える。
9月初旬、高梁市内でトラックと衝突し内臓に重傷を負った新見市の20代女性は、ドクターヘリで命が助かった。女性は「手を握って『頑張れ』と励ましてくれた先生たちの言葉が忘れられない。ヘリが来てくれてよかった」と話す。
荻野准教授は「本格運用してから8年目となり、活動は知られるようになった。ドクターヘリの有用性をさらに示し、各方面に理解してもらえるようにしたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。
要請から30分で治療も
川崎医科大付属病院ドクターヘリ待機室に、倉敷市消防局からの緊急電話が鳴り響いた。
▽PM2:58―要請
「出動要請ですね。どんな状況ですか?」
ヘリ運航会社の担当者が、事故現場や患者の状態を聞き取る。機長と整備士は部屋を飛び出し、ヘリポートへ向かった。
情報はすぐに同病院高度救命救急センターにも届き、フライトドクターとナースも走り始めていた。
▽PM3:02―離陸
「ドクターヘリ、エンジンスタート」。ヘリは時速200キロを超える速度で約17キロ先の倉敷市内の現場へ。
▽PM3:08― 到着
臨時へリポートの運動場に着陸。患者は50代男性。草刈り機で左ふくらはぎの一部を断裂。医師は止血など応急措置を行った。
▽PM3:28―病院
患者は医師とドクターヘリに乗り、同病院高度救命救急センターに。歩行に障害が出てしまうため、整形外科医が消毒後に縫合。治療は出動要請からわずか30分で終了した。
◇ ◇
フライトドクターの1人で、川崎医科大付属病院救急科の荻野隆光准教授(53)が、必ず身に付けているバッグがある。中には気管切開セット、ガーゼに加え、ゴーグルや革手袋。「(事故現場では)ガラスの破片などから身を守るためにも、あらゆる事態を想定して急行する」。過酷な救急現場が目に浮かぶ。
ドクターヘリ機内は、まるで救命救急センター。患者を寝かせるストレッチャー、心電図や酸素ボンベ、除細動器なども装備。「これが大切」とフライトナースの吉峯由香さん(32)が手に取って見せてくれたバッグには点滴セットにガーゼ、縫合用の糸と針、胸に血がたまった時に使う管が入っていた。
1分1秒を争う処置が必要なだけに入念な準備が欠かせない。
年間450件出動 高コスト、「夜間」が課題
ドクターヘリは1999年、厚生労働省が川崎医科大付属病院などに全国で初めて試験配備。現在13道府県に14機あり、主に医師が患者の元に駆け付ける「現場出動」と、地元病院から都市部の病院に運ぶ「病院間搬送」で年間5000件を超える出動がある。
同病院では2001年4月から本格運航を始め、これまでの総出動件数は3039件。出動件数は年間450件前後で推移し、07年度は過去最高の475件に上る。
運航時間は原則午前9時から日没30分前。岡山県内をはじめ広島、香川、兵庫県の一部をカバーする。
「県北だと最寄りの病院や川崎医科大まで救急車で1時間以上かかるが、ヘリだと30分以内で行ける」と同病院救急科の荻野准教授。
近年は学校グラウンドや公園など使用環境の整備も進む。「自治体や各消防本部の協力で、臨時ヘリポートが増えている」と荻野准教授。01年3月末は152カ所だったが、現在は556カ所と約4倍に。「ヘリポートが増えればそれだけ現場が近くなり、救命率も高まる」
最大の課題は「コスト」(荻野准教授)だ。操縦士や整備士の人件費、燃料費など運航に関わる維持費は年間約1億6000万円。国と県が折半しているが、補助金は定額のため、現在の仕組みだと出動件数が増えれば赤字になる。また、実施していない夜間フライトも、要望が多いだけに検討課題と言える。
9月初旬、高梁市内でトラックと衝突し内臓に重傷を負った新見市の20代女性は、ドクターヘリで命が助かった。女性は「手を握って『頑張れ』と励ましてくれた先生たちの言葉が忘れられない。ヘリが来てくれてよかった」と話す。
荻野准教授は「本格運用してから8年目となり、活動は知られるようになった。ドクターヘリの有用性をさらに示し、各方面に理解してもらえるようにしたい」と話している。
(2008年09月20日 更新)
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医療・話題、 川崎医科大学附属病院