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(6)医療介護の町づくり―健康寿命をいかに延ばすか? 岡山西大寺病院理事長 小林直哉

小林直哉理事長

 厚生労働省が公表した2016年の日本人の平均寿命は、女性87・14歳、男性80・98歳でした。平均寿命が延びているのは、がんや心臓病などの治療成績の向上が要因と考察されています。

 都道府県別の長寿順位(15年)は、女性は前回に引き続き長野県が1位で87・67歳でした。男性は滋賀県が81・78歳で初の首位となり、前回まで5回連続で男性1位だった長野県(81・75歳)を逆転しました。

 滋賀県が男性日本一の長寿となった秘けつは、一体何なのでしょうか。琵琶湖を抱く豊かな自然、食文化…さまざまな理由が考えられますが、千年以上昔から「不老長寿の霊果」と呼ばれる伝説の果物「むべ」があるそうです。

 岡山市東区西大寺にも、はだか祭り、イチゴがありますね。そして、岡山西大寺病院もあります。「人生100年時代」の超高齢社会に向かって健康寿命を延ばし、「ピンピンコロリ」を目指すには何が必要か、皆さんと考えてみたいと思います。

 長寿県常連の長野県は以前、県民の塩分摂取量の多さや冬の寒さの影響で、脳卒中の死亡率が高かったそうです。食生活を含む生活習慣を見直し、塩分摂取量を抑える努力がなされました。行政だけでなく、保健師や食生活改善推進員、地元医療機関、ボランティアの「保健補導員」らが連携し、健診の普及・啓発、塩分摂取を抑える食事や調理法の講座など、地道な活動が行われました。

 食生活を変えるには、「自らの地域文化とどのように向き合うか」という難しい課題があります。「漬物を一切食べない」など極端なことは求めず、食べる回数を少し減らす、味付けを少し変えるなど、小さな積み重ねを大切にしました。

 もう一つの要因に「高齢者の社会参加」がありました。長野県は高齢者の就業率が高く、多くの高齢者が畑に出ています。体を動かして自分が食べるものを作り、地域で暮らせていることも、長寿の一因となっています。

 長野でも、肥満やメタボリック症候群に悩む人が増え、摂取エネルギー量を適量に抑える取り組みが必要となり、2014年からAction(体を動かす)、Check(健診を受ける)、Eat(健康に食べる)の頭文字を取った「ACE(エース)健康づくり県民運動プロジェクト」を開始しました。

 薬に対する意識改革も行われました。生活習慣病になると、血糖値や血圧を下げる薬を飲みますね。病状によっては薬が必要な場合もありますが、健康維持に最も大切なのは食生活改善や運動です。「薬で血圧を下げて終わり」ではなく、生活習慣を根源的に改める必要があることを理解しなければなりません。

 日本人の健康寿命(自立して日常生活を送れる期間)は、平均寿命よりも男性は約9年、女性は12年以上短いという悲しいデータもあります。残りの期間は要介護状態ということです。

 最近の研究で、「フレイル」という状態と上手に付き合うことが、健康寿命の延伸に重要であることが分かってきました。フレイルとは、加齢に伴って筋力や活動量、認知機能が低下した状態です(表1)。「健康」と「要介護」の中間に当たり、そのままでは要介護になる危険性が高い一方、適切なケアで健康な状態に戻ることが可能です。一人一人の努力がカギを握ることになります。

 高齢になると食が細くなり、70代のエネルギー摂取量は60代より1割程度も減ります。食事に占めるたんぱく質の分量を増やすことが必要です。普段の食事に魚、肉、乳製品などたんぱく質を含む食品を1品増やす「ちょい足し」が取り組みやすいかと思います。

 60代までは「太るな」と言われますが、70代になったら「体重を減らさないこと」が目標です。運動では、65歳以上を対象にした調査で、1日7500歩以上歩くと筋肉が減りにくいようです。がんや生活習慣病が治る時代になったからこそ、自立して暮らせる時間をできるだけ延ばすフレイル対策が重要です。

 体同様に心も老化します。心の老化の原因は何なのでしょうか? 心はいろいろなものを「失う」ことで老化するのです。かわいがっていたペットを失ったり、恋人と別れて心にポッカリ穴が開いて、元気がなくなったり…といった喪失感がそうです。加齢とともに失うものも多くなり、自信も失いがちになります。

 どうすれば、心の老化を防げるのでしょうか? 「心を老けさせないエイジングケアのポイント」を8カ条にまとめてみました(表2)。すべてを実践する必要はありませんが、皆さん自分なりにトライしてください。

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 岡山西大寺病院(086―943―2211)

 こばやし・なおや 岡山大学医学部卒、同大学院医学研究科修了(医学博士)。同大学医学部外科学第一講座を経て、米国ネブラスカ州立大学医療センターで臓器移植や再生医療に従事した。2010年、岡山西大寺病院院長。12年から同理事長。岡山大学医学部医学科臨床教授。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年03月19日 更新)

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