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性別適合手術に保険適用の意義は 中塚幹也GID学会理事長に聞く

GID学会理事長として厚生労働省と協議を重ねた中塚教授

 心と体の性が一致しない性同一性障害(GID)の人に対する性別適合手術に、4月から公的医療保険が適用される。GID学会理事長として厚生労働省と協議を重ねてきた岡山大大学院の中塚幹也教授は「制度の厚い壁に大きな穴をあけられた」と言う。保険適用の意義や今後の課題を聞いた。

 日本で正当な医療として、性別適合手術が初めて行われたのは1998年で、埼玉医科大が手掛けた。岡山大病院でも2001年に実施している。日本精神神経学会の調査では、国内での手術は15年12月時点で1407例に上っている。

 性別の違和感に苦しむ当事者にとって、性別適合手術は自分の本当の性を取り戻す重要な意味を持つ。費用は100万円以上かかることもあり、最大3割の自己負担で済む保険適用への期待は大きい。

 だが、4月にスタートしてもほとんどの当事者が自費での手術を余儀なくされる。大半が自由診療のホルモン療法を受けており、保険診療と自由診療との併用を禁じた「混合診療」に該当するからだ。

 ホルモン療法の中断を考える当事者も出てきているが、健康上の悪影響は否定できない。例えば、体は男性の当事者で女性ホルモンを何年も受けていた人が急にやめると、ホルモン量が不足し、更年期障害のような症状や骨粗しょう症になる恐れがある。やめたとしても医療費の請求が正しいか審査する専門機関が、混合診療と判断する可能性もある。

 学会としては、ホルモン療法の保険適用を引き続き求めていく。そのために、ホルモン剤の安全性や有効性に関するデータ収集の準備を始めた。厚労省とも調整を進めているが、前向きに考えてくれているようだ。

 もろ手を挙げて喜ぶ状況ではないが、保険適用は大きな一歩だ。これまで「変な治療をしているのでは」と、当事者や医師が周囲から冷ややかな目を向けられることもあったが、国が手術を正式な治療と認めたことになり、偏見をなくす上でも大きな意義がある。

 世界保健機関(WHO)による国際疾病分類(ICD)が今年改訂される。性同一性障害の名称も「障害」を削除する方向で検討されており、埼玉医科大での手術から20年を経て、新たな時代に入ったと感じている。多様な性を認め合う社会へ、一人一人が考える契機にしていきたい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2018年03月29日 更新)

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