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高松・受精卵取り違え 不妊治療施設に衝撃

受精卵が取り違えられた問題が明るみに出た香川県立中央病院の培養室

記者会見で謝罪する川田医師(左)と松本院長

 香川県立中央病院(高松市番町)で、不妊治療を受けていた女性患者が別夫婦の受精卵を移植された疑いから胎児を人工妊娠中絶した問題は、香川、岡山の不妊治療施設に衝撃を与えている。香川県内有数の医療施設で起きた“ありえないミス”。不妊治療の信頼確立に向け、取り違え防止策の強化に乗り出す施設も出始めた。

 同病院での取り違え問題では、培養具合の確認時に別々の夫婦の受精卵が入った2つの容器を作業台に置いた▽複数の人間での確認を怠った▽容器のふたと皿のうち、ふたにしか名前を記していなかった―など、基本的な安全対策が取られていなかったことが発覚。

 不妊治療で県内屈指の実績を誇り、患者からは「最後の 砦 ( とりで ) 」とも呼ばれる同病院だが、安全の管理体制はあまりにもずさんだった。

 「大きな教訓」と話すのは、高松市立高松市民病院(同市宮脇町)。受精卵を入れる容器はふたと皿の両方に患者名を記すことなどを徹底しているが、確認作業は現在、1人で行っており、早急に態勢を見直す方針。

 日本産科婦人科学会は2000年、受精卵の識別の徹底を通知したが、安全対策は個々の施設でまちまちなのが現状だ。

 不妊治療を専門に扱う岡山二人クリニック(岡山市津高)の林伸旨院長は「(施設の)規模が大きいことが医療の完ぺきさを保証するとは限らないということを露呈した」と指摘する。

 岡山県内で有数の実績を持つ倉敷成人病センター(倉敷市白楽町)は、確認作業は培養専門スタッフ2人で行い、テーブルでの作業も1回に1組分だけ扱うよう徹底してきたが、20日、容器の皿にも患者名を記すことを新たに決めた。

 岡山大大学院の粟屋剛教授(生命倫理学)は「医療は高度化が進み、医師は診療や研究に追われ精神的なゆとりがなくなっている。不妊治療の分野も例外ではない」と指摘している。



報告までに葛藤 担当医が会見

 香川県立中央病院での受精卵取り違え問題で、人工妊娠中絶した女性の体外受精を手がけた川田清弥医師(61)が20日夜、香川県庁で会見した。「このような結果を招き心からおわびします」と女性と家族への謝罪の言葉を何度も口にした。

 川田医師は、取り違えの理由を「複数でのチェックができていなかった」と言い、ミスの原因となった別夫婦の受精卵培養容器をなぜ作業台に置いたままにしたのかについては「思い浮かばない」と話した。

 昨年10月に受精卵取り違えの疑念が生じ、松本祐蔵院長に伝えるまでの約2週間は「夜も眠れず、黙っていようとの衝動にかられたこともあったが、人として疑念があることを報告すべきと思った」と、 葛藤 ( かっとう ) したことも明かした。

 自身の進退については「不妊治療はライフワーク。遅きに失したかもしれないが、再発防止に万全を期して今後も取り組む」とした。

 一方、高松市は同日、医療法に基づき同病院を立ち入り調査。同病院から、受精卵培養容器の確認作業は複数で行うことなどの対策について説明を受けた。

 同病院は同日、同院での不妊治療患者を対象に取り違えなどの不安に答える相談電話(087―835―2222)を設けた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年02月21日 更新)

タグ: 女性お産

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