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9 保険適用 生存率高いと無理?

生体肝移植手術の手技を説明する岡山大の患者向けマニュアル(部分)。保険適用や治療費についても概略的に触れている

 「Money Talks」というタイトルの映画やヒット曲もある。お金は物を言う。生体肝に限らず、移植に立ち向かう家族は、いやでもその“金言”に突き当たる。

 当面、移植を考えないことにしようと決めていたのは、ドナーの問題があるからばかりではなかった。

 「うーん…」。うなったきり、モニター画面をにらむ高木章乃夫医師の表情が固まっている。岡山大病院消化器内科に所属する高木医師(助教)は、内科医の目で移植をフォローする。2007年11月、私はレシピエント候補者としてご高診を仰いだ。

 移植は外科医だけではできない。麻酔科 蘇生 ( そせい ) 科、血液・ 腫瘍 ( しゅよう ) 内科、放射線科…これからさまざまな専門医に出会うことになるし、もちろん看護師や移植コーディネーターら、大勢のコメディカルスタッフにもご登場願わなければならない。

 高木医師が見つめていたのは、難しそうな英語のホームページ。肝臓病で国際的に権威のある米国の総合病院が公開している。年齢や血液検査の値を入力すると余命(生存率)をはじき出してくれるのだが、私の場合は1年後は99%、2年後でも97%という答えが返ってきてしまう。

 ん? 肝硬変で1年先も分からないはずでは? それが私の病気の不思議なところ。B型、C型とも肝炎ウイルスは陰性。実は移植を勧められた時点で、肝硬変の原因ははっきりしていなかった。

 かつては一晩でバーボンウイスキーのボトルを半分空けてしまうこともあったが、06年8月の硬膜外 膿瘍 ( のうよう ) の手術後は一滴も酒を飲んでいない。

 肝臓病患者は飲酒歴については本当のことを言わない、というのが専門医の常識だそうだが、今更うそをついてもしょうがない。アルコール性肝硬変という診断ながら、なぜ断酒から1年近くもたって発症したのか、皆目見当がつかなかった。

 確定診断をつけるためには、肝臓に直接針を刺して組織採取する肝生検が欠かせない。しかし、腹水が大量にある状態では禁忌とされる。針が届かなかったり、出血を招きやすいからだ。

 「移植するとしたら、保険適用してもらえるでしょうか?」

 「うーん」。高木先生、またも首をかしげる。大半の肝硬変患者に生体肝移植が保険適用されるようになったけれど、すべてではない。生存率が高いのはありがたいが、その状態ではまだ保険適用の必要なし、と判定されてしまう。

 移植にはいくらかかるのか。治療経過によって異なるが、私の場合、昨年3月の手術時から同6月末の一時退院までの医療費は1337万円。幸い保険給付(3割負担)を受けることができたのだが、もし全額自己負担するとしたら…。あなたは決断できますか?


メモ

 Money Talks ハリウッド映画は「ランナウェイ」の邦題(1997年公開)。主演、制作総指揮を務めたクリス・タッカーのマシンガントークは爆笑もの。オーストラリアのロックバンドAC/DCのヒット曲(1990年発表)のプロモーションビデオでは、ステージに雨あられとドル紙幣が降り注ぐシーンが印象に残る。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年06月08日 更新)

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