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子育て支援 先進の企業・事業所5社に県知事賞 

子どもたちが笠岡第一病院を訪ねた職場見学=昨年7月

 経験豊かな社員が出産、育児で退職するのを防ごうと、知恵を絞る企業が増え始めている。岡山県は昨年度から、従業員の育児を支援する企業や事業所を「おかやま子育て応援宣言企業」に認定、ホームページで紹介するなど参加を呼び掛けている。同県内を中心に、先進的な事例や課題を追った。(則武由)


保育所併設や夜勤免除 従業員退職「大きな損失」 岡山県内、先進の企業・事業所

 新見市唐松の特別養護老人ホーム唐松荘。ここでは過去十年間の女性職員の育児休業取得率が100%。出産や育児を理由とする退職者もゼロというから驚きだ。

 働きやすさの理由は、二〇〇一年に開設した施設内保育所。保育士四人が常駐し、十人程度の職員が利用している。「子どもが一緒に通勤でき、具合が悪いときは様子を見に行けるので安心」と、長女を預けている小川 穣児 ( じょうじ ) さん(30)。また、同施設では子育て世代の職員十数人が「両立委員会」をつくり、働きやすい職場づくりを施設管理者に提言。子どもの誕生日を休むことができる「バースデー休暇」の導入を四月から実現させている。

 学生服製造の尾崎商事(岡山市駅元町)は昨年十月、育休中の従業員が互いに情報交換できる電子掲示板、エクセルやワードなどの技術を学ぶオンライン講座が受けられる支援サイトを立ち上げた。短時間勤務や保育料補助も新しく導入した。

 同社の女性従業員はかつて結婚や出産で退職する人が圧倒的に多かった。「辞めていく先輩たちを見ていたので、正直なところ育休を使うかどうか迷った」と、育休中の長谷川絵美さん(28)。「(育休中は)長期間職場を離れるだけに、ネットで会社や仲間とやりとりできるのは助かる。復帰後は短時間勤務の利用も考えながら、仕事と育児を両立したい」と言う。

 これらの制度について同社の四方正樹人事課長は「保育料補助やサイト運営は会社にとって負担だが、従業員を失うのはもっと大きな損失」と話す。

労働人口の確保

 企業が育児支援制度を充実させる背景には、少子高齢化で減少する労働人口の確保がある。女性が多い職場ほど対策が進んでいることも特徴だ。

 職員百二十人中百人が女性の唐松荘では、池田和泉事務長が「女性職員の悩みを聞くうちに、施設内保育所や勤務時間の変更が必要と痛感した」と言う。三百三十二人中女性職員が八割を占める笠岡第一病院(笠岡市横島)は保育料補助や夜勤免除に加え、子どもたちに保護者の仕事を知ってもらおうと、毎年夏休みに職員の子どもを招いて職場見学を実施。医療の現場に接することで、親の仕事の大切さを肌で感じてもらおう―との狙いだ。

 「女性の仕事と育児は切り離して考えられない。家庭で子どもたちが仕事を応援してくれれば、これほど心強いことはない」と同院の育児支援制度を担当する宮島裕子医師。

難しい雰囲気づくり

 企業、事業所で進む子育て支援だが、サポート体制をはじめとする課題もある。

 笠岡第一病院では「育児中の夜勤や休日勤務を免除すると、独身者や子育てを終えた世代にしわ寄せがいく。負担が片寄らないようにシフトを組むのは大変」と宮島医師。尾崎商事の四方課長も「制度を気兼ねなく使ってもらうには、職場全体の理解が必要。とはいえ、社内には制度に関心がない人もおり、雰囲気づくりは難しい」と胸の内を明かす。

 女性の就労に詳しい岡山県立大の近藤理恵准教授(社会学)は「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)に配慮した労働環境は社会の流れ」とした上で、「経営環境が厳しさを増す中、すべての企業が大手並みに支援策を打ち出すのは難しい。それだけに、短時間勤務や在宅勤務といった雇用形態の工夫が一層必要になるのでは」と話している。


5社に県知事賞 岡山の62社 「応援宣言」

 「おかやま子育て応援宣言企業」に認定されている企業・事業所は現在六十二社。そのうち、唐松荘、尾崎商事、笠岡第一病院に加え、両備ホールディングス(岡山市錦町)と中国銀行(同市丸の内)の五社が昨年度の県知事賞を受賞した。

 両備は女性社員のプロジェクトチームを作り、働きやすい職場についてアンケート。意見を基に、出産や育児、介護などが理由の退職者を再雇用する再就職支援制度を昨年一月から導入した。まだ、再就職した人はいないが、現在八人が登録し今後就業条件が合えばグループ企業に優先的に再就職できる。

 中国銀行はパートタイマーを積極的に正行員として採用している。また社員に限らず、地域を対象にした少年サッカー大会やコンサートを開催。子どもが危険を感じたときに逃げ込める「こども110番連絡所」にも協力するなど、地域に向けた子育て支援活動が評価された。


第5子祝い金500万円 制度手厚い大手

 従業員の育児を支援する社内制度の充実は、岡山県内だけでなく全国的な流れ。特に大手企業では勤務時間や育児休業の改善などのほかに、子育てそのものを金銭的に支援する制度を設けるところが増えている。

 ソフトバンク(東京都)は昨年4月から、出産祝い金を大幅に増額した。第3子の誕生に100万円、第4子300万円、第5子は500万円。同社広報によると、3月末までに第3子の100万円を28人が、第4子の300万円と第5子の500万円を1人ずつが受け取ったという。

 大和証券(同)は第3子以降の子どもが生まれた場合、子ども1人につき200万円、富士フイルム(同)は100万円の祝い金を贈る。伊藤園(同)はベビーシッター利用料を全額負担するほか、第1子に月5000円、第2子同1万円、第3子同3万円など、育児手当も支給している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2008年05月23日 更新)

タグ: 笠岡第一病院

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