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患者本位の精神貫く 倉敷中央病院(倉敷市) 内田璞院長 備中力くらしき力 地域を語る

倉敷中央病院(倉敷市) 内田璞院長

地域医療の中核拠点として期待がかかる倉敷中央病院

14階建て新病棟完成後の倉敷中央病院のイメージ図

 高度医療を担う急性期基幹病院として、長年にわたって多方面で存在感を示してきた倉敷中央病院(倉敷市美和)。地域の医療機関との連携も進めており、中核となる同病院の役割は大きい。内田璞(すなお)院長に運営方針や現状、将来像などについて、山陽新聞社の若狭正吾常務取締役倉敷本社代表が聞いた。(本文敬称略)


地域拠点

顔の見える病診連携必要

 若狭 中四国屈指の医療レベルはもちろん、地域医療の基幹病院として、かなり早い段階から病診連携・病病連携を実践されてきました。

 内田 循環器内科が一九八一年にいち早く、地域の医療施設が基幹病院の外来機能を分担することで地域住民との密接な関係を維持する「地域チーム医療」という考えで始めました。国が病診連携を唱える以前の時期です。私の専門の眼科でもかなり以前から「倉敷眼科臨床懇話会」という名称で行っています。この取り組みではかかりつけ医との顔の見える連携が不可欠で、互いの治療に対する考え方、患者管理のあり方を理解することが非常に大切です。

 若狭 まさに病診連携の先を行く先駆的な取り組みですね。

 内田 われわれは、あくまで患者さんのために、地域の医療資源を十分活用することに主眼を置いています。紹介先の医療機関には診断、経過説明の返事が必要で、これを迅速、確実に実施する部署として八九年に地域医療サービス室を開設。二〇〇二年には看護師・医療ソーシャルワーカーを含めた総合相談・地域医療センターに発展させました。現在は職員が連携医療機関を訪問して情報交換を行い、当院への要望も聞いています。そこで得られる意見は参考になることが多いのです。

 若狭 大病院の方から他の医療機関に出向くという姿勢には、驚きを持ちました。

 内田 受け身の姿勢では、地域の医療機関のニーズにこたえられません。要請があった場合、医師と看護師が同乗して患者さんを迎えに行く二十四時間体制のドクターカーの取り組みも早くから行っています。また、看護師間の連携も密接で、〇二年より看護連携を奨める会を開始し、ケア情報の共有に努めています。

 若狭 基本理念の一つである「患者本位の医療」が、本当に現場に根付いていますね。

 内田 創設者で倉敷紡績社長だった大原孫三郎は、患者本位を病院の理想としていました。今から八十年以上も前のことで、当時はかなり先進的な考えです。京都帝国大の荒木寅三郎総長の協力を得て、多くの優れた医師を迎え、欧州から最新の医療機器と多数の医学書を取り寄せたそうです。院内にある二カ所の温室は創設時の復元で、目的は患者さんの癒やしにあります。医療界は変革の時代と言われていますが、原点でもある患者本位の精神は、今後も引き継いでいかねばなりません。

 若狭 昨年六月には、岡山県から地域医療や救急医療を支える「地域医療支援病院」に承認されました。今も県西部では唯一です。

 内田 病診連携を強力に進めた結果、地域を支える中核病院に位置付けられました。岡山県西部のすべての医療施設が集って一つの大きな地域を支える病院を形成し、役割分担するとの考え方が重要です。基幹病院は急性期の治療を引き受け、治療が終われば紹介元の施設に戻ってもらいます。当院での平均在院日数は一二・五日です。連携した医療機関向けの開放病床制度も導入しており、現在は七医師会百五十三人の医師が登録されています。

 若狭 総合周産期母子医療センター、地域がん診療連携拠点病院としての施設認定も受けています。倉敷中央病院に寄せる地域の期待は大きい。

 内田 総合周産期母子医療センターは、岡山県では国立病院機構岡山医療センター(岡山市)と二施設のみ。近隣の医療機関の産科医・小児科医が不足し、患児の受け入れができなくなり、当院へ集中するので運営に苦慮しています。地域がん診療連携拠点病院には、高度ながん医療に加えて、がん診療従事者の教育・研修の責任があります。地域で頼りにされる存在であり続けられるよう努めたいと思っています。


病院運営

先駆的取り組みに期待大

 若狭 医師や看護師ら職員は約二千七百人にも上ります。大組織だけに、運営面での苦労も多いのでは。

 内田 大組織だけに、病院の方針が末端まで浸透し難く、変化への対応力が弱いところがあります。これを常に意識して運営しています。人材の確保も大きな課題です。若い医師は都市志向が強い半面で、キャリア向上への関心も高い。研修医をはじめ優れた医師が集まるよう、教育体制などの環境整備に力を注いでいます。看護師の採用活動は西日本全域の看護学校に及びます。

 若狭 昨年十月には、内閣府認証のNPO法人「女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会」から全国十二番目の施設として「働きやすい病院評価」の認定を受けました。

 内田 倉敷市内の二病院と共同で、七六年に市内に保育園を開園しました。女性職員の離職の最大の原因は育児です。保育園は、三交代看護師中心の施設でした。「病院と離れていて不便」との声もあり、院内に分園を整備。二十四時間体制で運営し、病児保育も行っています。ここ数年は増加する女性医師への対策も必要になってきました。既存の保育園に加え、フレキシブルな勤務体制の導入、復職支援の研修プログラム作成も始めています。さらに、全職員の働きやすい職場環境を目指します。

 若狭 他にも課題はありますか。

 内田 創設者の理想とした患者本位を引き継ぐためには、強い志が必要。志を持続させるためには、効率や収益性を考えないといけません。財政面では、独立採算制の私立病院ですから国の医療費削減が進む中、経営の難しさは増す一方です。

 若狭 そうした中、次代に向けた大きな投資も行われています。

 内田 二〇一二年の完成を目指し、地上十四階地下一階の新病棟(延べ約四万七千三百平方メートル)を建設中。急性期医療の中枢を担う手術センター、集中治療室も最新鋭設備に切り替えます。合わせて、一四年までに既存の第一病棟(地上十階地下一階=延べ約三万三千平方メートル)の改修も実施。病室を広くし、スタッフステーションの機能を高めるなどの計画です。

 若狭 医療環境、患者さんのアメニティ(快適性)がさらに高まりますね。

 内田 患者さんの病院に対する一番の関心事は「医療の質」でしょう。医療技術、設備などの医療水準も含め、いかに高めていくかの対策が重要です。当院では、電子カルテをすでに約七割方導入しているので、このデータを、医学研究や医療の質を評価する尺度づくりにも生かせるようなデータベースの構築を考えています。医療の質を管理する仕組みも必要で、昨年に準備室を創設し、検討中です。自己評価だけでは評価が甘くなりますので、外部にも通用する客観的評価をとの思いがあります。患者さんの満足度や納得性も大切な指標でしょうし、他の病院との比較も必要になるでしょう。

 若狭 病院の将来像をどう描かれますか。

 内田 当院は精神科、歯科もある総合病院です。最近は経営効率面などから専門特化に傾く病院が増えていますが、身体と心の両面から患者さんと向き合う「全人医療」を実践するには、総合病院の形を崩せません。特に、高齢の方はさまざまな持病のうえに、新たな急性疾患を発症することが多いのです。この場合、多くの診療科にまたがる治療が必要になります。総合病院が必要とされるゆえんです。医療環境が急速に変化する中、不採算部門をカバーしながら、病院の役割、あるべき姿を追求していきたいと思います。


財団法人倉敷中央病院

所在地 倉敷市美和1―1―1

創設 1923(大正12)年6月

診療科目 消化器内科、循環器内科、小児科、外科、脳神経外科、心臓血管外科など27科

病床数 1135

外来患者数 1日当たり約3000人

職員数 約2700人(うち医師377人、看護師1120人)

関連施設 倉敷リバーサイド病院、総合保健管理センター、倉敷中央看護専門学校、倉敷中央ケアセンター
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年02月15日 更新)

タグ: 倉敷中央病院

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