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第21回 緩和ケア 岡山済生会総合病院 石原辰彦主任医長 適切な薬で痛み除去 精神的な不安にも対応
いしはら・たつひこ 1988年自治医大医学部卒。矢掛町国保病院、成羽町国保病院などを経て97年から岡山済生会総合病院勤務。日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本緩和医療学会暫定指導医。
緩和ケア病棟のデイルームには花を生けたり、お茶を用意するボランティアの姿が絶えない
治療と緩和ケアの比重
―緩和ケア病棟ができて間もなく12年になります。患者や家族の意識も変わってきたのではないでしょうか。
当初、がんで亡くなる時の最期の場所―という認識で来られることが多かったです。今は最期だけではなく、もっと早い時期から苦痛に苦しんでおられる方に対するケアをする場所―と、緩和ケアの定義も変わりました。苦痛を取って家に帰ろうという方々も大勢いらっしゃいます。
急性期病院の中にある緩和ケア病棟ですので、一般病棟から次の場所に移るための援助をするという位置づけもあります。1〜2週間で症状を和らげて帰宅し、何カ月も家で過ごすことができる方もいます。
―激しい痛みを抱えている方が多いですが、オピオイド鎮痛薬にいろんな選択肢ができましたね。
以前はモルヒネ製剤くらいしかなかったのですが、オキシコドンの徐放(じょほう)剤(成分が徐々に放出されて効果が持続する薬)や、湿布のように張り付けるフェンタニル貼付(ちょうふ)剤が出てきました。それぞれいい点、悪い点がありますので、うまく使い分けていきます。
―「麻薬」のイメージで心配される方もいると思いますが。
麻薬・覚せい剤の乱用とは違い、がんの痛みに対して医療用麻薬を適切に使うことで中毒にはなりません。寿命を縮めることはなく、逆に苦痛を取って楽になれば寿命が延びることもあります。
病気による慢性痛は我慢しているとどんどん強くなりますから、正直におっしゃっていただくのがよいと思います。病棟に来られた患者さんには、まず、「痛みを我慢しないでください」と約束してもらいます。
―神経障害性の痛みなど、オピオイドだけでは鎮痛の難しいものもありますね。
てんかん(けいれん)やうつ病、不整脈に使う薬といった鎮痛補助薬が痛みを楽にしてくれることがあります。保険適応ではありませんので、患者さんとよく相談した上で使います。モルヒネを大量に使うと、便秘や吐き気、眠気などの副作用が目立ってきます。鎮痛補助薬を上手に使えば、より少量のモルヒネでも痛みが取れていくことがあります。
―精神的にも不安を募らせる患者が少なくないと思いますが、どう支えていますか。
体の痛みだけではなく、精神的な痛み、仕事や家族などに関連する社会的な痛み、スピリチュアル(霊的・実存的)な痛みもあります。患者さんとの会話の中から痛みの背景にあるものを拾い出し、それぞれに対応することが大切だと思います。命を脅かされ、根源的な苦しみが出てきます。苦しみをゼロにすることはできませんが、スタッフがそれぞれの専門性を生かし、患者さんのことを理解して、少しでも希望が見えるようにと考えています。
緩和ケア病棟には医師と看護師と看護助手が常勤していますが、ほかにも兼任で薬剤師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、栄養士、リハビリのスタッフたちがいます。ボランティアにも50〜60人の方が登録しておられます。花瓶の水を入れ替えたり、ティーサービスや季節の行事、絵手紙や手芸教室などいろんな活動をしてくださっています。
一般病棟向けの緩和ケアチームもあります。主治医と看護師をサポートし、間接的に緩和ケアを提供するのが主体ですが、直接患者さんをケアすることもあります。
―退院後、家族だけで痛みがコントロールできるか、症状が急に悪化したら…と心配する患者もいると思いますが、どう対応していらっしゃいますか。
頓服薬の使い方をしっかり学んで帰っていただくのが第一です。慌てないでこの薬を使えば大丈夫だと分かれば、患者さんやご家族も安心します。一般病棟を退院する前に、いったん緩和ケア病棟へ入って勉強してから家に帰るのがよいかもしれません。
肝心なのは訪問看護ステーションです。いつでも訪問看護師に相談できる態勢であれば、安心して過ごせると思います。できるだけ退院前に訪問看護師、ケアマネジャーやいろんな方に集まっていただいてカンファレンスをします。患者さんもこれだけの人が自分をサポートしてくれるんだと実感できます。困ったときには緩和ケア病棟が24時間、電話で相談を受けます。
病院で亡くなることに慣れてしまい、看(み)取りが初めてというご家族が多くなりました。人間の死はこういう変化をたどるんですよ―とお伝えし、ご家族が精いっぱい患者さんのことを考えてお世話をし、できるだけ心残りがないように手伝うのが私たちの役目だろうと思います。
緩和ケアの考え方
世界保健機関(WHO)が2002年に採用した緩和ケアの定義によると、「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の痛み、その他の身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切に評価し対応することを通して、苦痛を予防し緩和することにより、患者と家族のクオリティー・オブ・ライフ(生命・生活の質)を改善する取り組みである」とされている。
歴史的には、死に向かう人が人間的に過ごせることを目指したターミナル(終末期)ケア、英国でのホスピスの実践を踏まえたホスピスケアの考え方を受け継ぎ、より早期からの積極的ケアへ対象を拡大してきた。現在では死期を問わず、がんと診断された時点から、治癒を目的とする治療と同時に緩和ケアを受けることができると考えられている。
オピオイドは痛みを伝える脳や神経系の受容体に結合し、鎮痛効果を現す薬剤。生体内にも同様の作用を示す物質がある。WHOはがん疼痛(とうつう)治療のガイドラインを策定しており、痛みの強さに応じて非オピオイド鎮痛薬(アスピリン、ボルタレンなど)、弱オピオイド(コデイン、トラマドール)、強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)の3段階の薬を選択するよう推奨している。非オピオイド鎮痛薬はオピオイドと併用できる。
1998年7月に開設された岡山済生会総合病院緩和ケア病棟には、2009年度までに延べ1997人が入院した。09年度の平均在院期間は32.3日。
(2010年06月28日 更新)