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(1)コロナ患者が出たら

森脇正弁護士

今城健二副院長

 一部患者の問題行動や医療事故など、病院内ではさまざまなトラブルが起きている。加えてコロナ禍によって現場の負担は増し、感染などをめぐって訴訟の提起も懸念されるようになった。病院が抱えるさまざまなトラブルにどう対処すればいいのか、医療現場の分かる弁護士が回答する。

【質問】

 「院内で新型コロナウイルスに感染させられた」として、患者さんから訴えられた場合、医療機関は損害賠償などの責任を負うことになるのでしょうか。さまざまな対策はとっていますが限界はあります。職員の感染も心配です。どういった場合、法的な責任を問われるのでしょうか。

【回答】感染防止策 責任判断の要
岡山弁護士会 森脇正弁護士


 患者の院内感染あるいは病院職員の感染問題が発生した場合に、感染元の病院の責任問題は、新型コロナウイルスであろうと他の感染であろうと、法的な考え方に変わりはありません。

 院内での感染は患者から患者へ、病院職員から患者へ、患者から職員へ―の3通りが主に考えられます。病院の責任については、感染源と感染経路が院内にあると特定した上で、その各過程において病院が実施した感染防止対策の具体的内容が問われることになります。

 感染防止策については、まだ決定的な方法は編み出されていませんが、代表的医療機関や国、地方公共団体等の感染防止に関する見解が総合的にまとめられた場合には、その感染防止策を病院が実施しているかどうかが責任判断の要になります。

 医療機関は常に、現在の新型コロナウイルスの感染防止方法について目を向けるべきであり、その実践が望まれます。現在把握できる方法を全て講じていれば、感染が発生した場合であっても法的には病院の感染者に対する損害賠償責任は免れることになります。

 新型コロナウイルスの感染の問題をめぐっては、今までに経験のない新しい問題も発生しています。

 例えば、A社の職員が職場の都合上、ホテルに宿泊していた時に、その職員が職場でコロナに感染してしまい、その事実をホテルに伝えたとします。これを受け、ホテル側は従業員にホテル負担でPCR検査を実施した場合、その費用および消毒費用等を、A社に請求する、といったことも考えられます。

 感染者の出たA社に支払い義務が発生するかどうかは、今後の検討課題です。

【現場の視点】常に新しい知見取り入れ 
岡山市立市民病院 今城健二副院長


 公的病院である当院は、第二種感染症指定医療機関でもあり、当初から新型コロナウイルスに感染した患者さんの治療に当たっています。

 患者さんの受け入れに対しては、昨年1月から準備していました。過去に例のないウイルスですし、医療行為なのだからリスクは当然あります。患者さんに接する医療スタッフや他の患者さんが院内で感染しないよう、院外からのウイルス侵入防止も含め、WHO(世界保健機関)やCDC(米疾病対策センター)、国内の関連学会などから常に新しい知見を取り入れ、現場に反映させ、できる限りの対策は講じています。

 その一方で、医療スタッフに強いストレスがかかったり、一般診療を一部制限するなどの影響が出ているのも事実です。しかし、社会がコロナ禍という危機に直面している今だからこそ、市民の健康を守るという医療機関としての責務は誠実に果たしたいと考えております。

【メモ】

 新型コロナウイルス感染をめぐっては、昨年、広島県で訴訟が起きた。

 4月に新型コロナによる肺炎で死亡した広島県の80代女性の遺族が、死亡したのは感染の兆候があったヘルパーの訪問を続けさせたためだ―などとして9月、訪問介護事業所の運営会社に4400万円の損害賠償を求めて提訴。10月に和解が成立した。

 和解条項によると、運営会社に賠償責任はないが、感染予防に努力すると明記した。訴訟の目的は金銭の請求ではなく社会への問題提起であり、提訴が報道されたことで意図が達成されたとしている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年03月01日 更新)

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