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子宮がん(倉敷成人病センター) 腹腔鏡手術 体の負担軽く回復早い

腹腔鏡下で行われた広汎性子宮頸部摘出術=安藤副院長提供

安藤正明副院長

 腹腔鏡手術は大腸がんなどで普及してきたが、婦人科がんに実施している施設は国内では少ない。倉敷成人病センターの安藤正明副院長は、その第一人者で全国から患者を集め「開腹手術に比べ、痛みや出血量が少なく、体への負担が軽い。傷跡が小さいため、美容上のメリットも大きい」と強調する。

 子宮頸がん、子宮体がんで病期(前回7日付メディカの表1、2参照)を基準に、子宮を取る単純子宮全摘出術、子宮を支える基靱帯(きじんたい)や膣の一部も含め取り除く広汎(こうはん)子宮全摘出術、両術の中間の準広汎子宮全摘出術などを腹腔鏡下で行う。「頸がんはIIa期まで、体がんはIIIc期まで病態に応じ実施している」

 子宮頸がんでは全身麻酔をし、腹部に0・5〜1センチほどの穴を4、5カ所開け、穴から腹腔鏡(小型カメラ)や手術器具を挿入。体内をモニター画面で見ながら、電気メス、鉗子かんしを操作し、子宮や卵巣、卵管、周囲の組織などを切り取る。がんは周辺に飛び散らないよう、腹部内で医療用袋に入れて回収する。

 立体感のない2次元モニターのため遠近感がつかめず、狭い腹腔内で手術器具を動かす制約もあるが、高度な技術でカバー。「開腹より大幅に小さな傷で同等な手術ができる。広汎子宮全摘出術では排尿障害を防ぐため、がんが2センチ未満なら、ぼうこう神経の温存にも努める」と話す。

 将来妊娠を望む人には子宮頸部のみを切除し、子宮体部を膣につなげて温存する「広汎性子宮頸部摘出術」もできる。対象は子宮頸部にとどまっている2・5センチ未満のがんなど。早産や流産リスクが高くなるが「2001年以降に施術した50人のうち、12人が妊娠し、10人を出産した。再発例はない」と安藤副院長は説明する。

 一方、子宮体がんでは、子宮や卵巣、卵管摘出とともに、転移しやすい骨盤内や腹部大動脈などのリンパ節を広く切除することがポイントという。開腹手術だと下腹部からみぞおちまで20センチ以上切開するところを、腹部に0・5〜1センチほどの穴を7カ所開けることによって行う。

 「腹部大動脈リンパ節は、体内の深い位置にある。そこで脇腹から最短距離で後腹膜腔に腹腔鏡を入れ、切除するわけです」。回復が早いため術後、放射線、化学療法を追加する場合もスムーズに実施できるという。

 同センターでは1997年、婦人科疾患で腹腔鏡手術を始め、98年から婦人科がんに導入。2010年は子宮頸がんに23例、子宮体がんに31例行い、良性疾患などを含めた10年までの通算症例数は8500例を超える。

 豊富な経験から手術時間も短く、単純子宮全摘出術が約1時間、広汎子宮全摘出術が3〜4時間、入院はそれぞれ術後1週間、8〜14日ほどで済む。しかし、心肺機能が悪かったり肥満の人には行えない。また、子宮がんの腹腔鏡手術は公的医療保険が適用されず、入院期間にもよるが160万円前後かかる。

 安藤副院長は「リンパ浮腫などの合併症リスクはあるが、5年生存率は子宮頸がん、体がんともに開腹手術と遜色ない」と語る。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年11月21日 更新)

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