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(5)膵がんによる死亡者は増加傾向 岡山ろうさい病院消化器内科部長 柘野浩史

柘野浩史氏

 膵(すい)がんは、早期発見が難しく進行も早いため、手術で完治できる患者さんはまだ少なく、がんのなかでは最も医学的な経過が悪い病気です(5年生存率12・1%)。他の部位のがんに比べて罹患(りかん)数に対する死亡数の割合が極端に高いのが特徴です(罹患数4万2361例=2018年、死亡数3万6356人=19年)。

 膵がんは、部位別がん死亡数で男性では第4位、女性では第3位です。罹患数と死亡数は、今後さらに増加が予想されています。元横綱千代の富士さんや歌舞伎の坂東三津五郎さんなどの有名人も膵がんで亡くなっています。

 ■どのような人がなりやすい?

 (1)ご家族(近親者)に膵がん患者がいる人

 (2)糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)の患者さん

 (3)肥満

 (4)飲酒や喫煙などの生活習慣のある人

 こういった人々が膵がんになりやすいと言われています。

 このうち糖尿病は、初めて発症した時や、コントロールできていた血糖値が急に上昇した時に膵がんが見つかることがあります。また、大量の飲酒は膵臓を傷つけて慢性膵炎を発症し、さらに膵がんが発生する場合があるので注意が必要です。

 ■早期発見のために

 膵がんは早期発見が難しく、発症時には約6割は手術ができない進行した状態で発見されています。現状での発見のきっかけは、腹痛や体重減少などの症状が50・8%と最も多く、健康診断による腹部超音波検査や腫瘍マーカー値などの異常、集団検診による血液生化学検査の異常、糖尿病の悪化などが続きます。

 治療後の経過が良好な早期の膵がんは、発見時には約8割が無症状で、早期発見には症状が出る前に検査が必要ですが、公的な集団検診での膵がん検診はまだ確立されていません。

 病院受診後の精密検査は、造影剤を使用したCT、MRIや超音波内視鏡検査(EUS)などの各種の画像検査を行い、腫瘍の存在や部位、病変の範囲や転移の有無などを調べます。膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)の患者さんは、画像検査を定期的に受けるため、膵がんが早期の段階で発見されやすいことが知られています。前述の膵がんになりやすい人に該当する場合には、自主的に受診して画像検査を定期的に受けることをお勧めします。

 ■検査入院

 画像検査で膵がんが疑われる場合は、確定診断のために検査入院をして、腫瘍の組織や細胞の検査が行われます。超音波内視鏡下吸引生検(EUS―FNA)=写真=では、胃や十二指腸内から超音波で膵腫瘍を確認しながら細い針を刺し、針の中に入った組織や細胞を採取して診断します。短期間の入院で安全に実施され、診断率も90%と高く、膵体尾部がんの診断には第一選択の検査です。

 この検査が難しい症例や、胆管閉塞(へいそく)による黄疸(おうだん)を伴う場合には、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を実施し、膵管内の膵液の細胞を採取して検査に提出します。

 ■治療

 治療は、外科的手術、抗がん剤などによる化学療法、陽子線治療などの放射線療法があり、組み合わせて実施されることもよくあります。現時点では、完全に治す方法は外科的手術しかないため、手術が可能な場合には、術前の化学療法を経て手術することが最優先です。

 病変範囲や体力面で手術ができない場合は、化学療法や放射線療法が選択され、病気の進行を食い止めて現状を維持することが目標になります。十分な効果が得られない場合もありますが、これらは安全に実施可能なので治療を受けるべきです。将来革新的な治療法が発見されるまで、可能な治療を続けましょう。

 なお、自由診療による代替療法は現在効果があるものは無く、Apple社創業者のスティーブ・ジョブズさんのように後悔する場合があるので注意が必要です。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 つげの・ひろふみ 広島大学附属高等学校、大分医科大学卒業。岡山大学病院、川崎医科大学川崎病院、津山中央病院などを経て、2021年より岡山ろうさい病院に勤務、現在に至る。医学博士。日本内科学会指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本消化器病学会指導医・認定専門医・支部評議員、日本消化器内視鏡学会指導医・認定専門医・学術評議員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年04月04日 更新)

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