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(1)リンパ管静脈吻合術 顕微鏡下でつなぐ 患者の4割、むくみ軽快 密接連携で成果 岡山大学病院形成外科と光生病院 

木股敬裕教授

 がん治療後などにリンパ液の流れが悪くなり、手足がむくむリンパ浮腫。国内患者は10万〜15万人とされ、完治は難しいが、早期治療で症状の改善や悪化予防が図れる。岡山大学病院(岡山市北区鹿田町)形成外科と光生病院(同厚生町)は連携し、それぞれ顕微鏡下手術、複合的治療(複合的理学療法を中心とした保存的治療)などを実施。手術と複合的治療を病院間で密接に連携して行う体制は国内でも少なく、岡山県内外から患者を集め一定の成果を挙げている。

 リンパ管は、血管と同様に全身に張り巡らされ、毛細血管からしみ出た一部の水分(リンパ液)を回収している。中継点として空豆状のリンパ節が散在、新しいリンパ球や抗体を産生し異物や細菌を処理している。末梢まっしょうの毛細リンパ管から心臓に向かって合流を重ね、次第に太くなる。最終的には通常、下半身と左上半身のリンパ管は左鎖骨下静脈に、右上半身部は右鎖骨下静脈に流入している。

 リンパ浮腫は、リンパ液の流れが障害され、タンパク質の多い水分が細胞や組織の間にたまり、むくむ状態。先天性を含む原因不明の一次性(原発性)と、がんの手術に伴うリンパ節切除、放射線治療や外傷、感染などで起きる二次性(続発性)に分けられる。

 国内では、リンパ浮腫はがん生存者の約20〜40%に起きているとされ、最初は上腕や太もも内側がむくみやすい。女性患者が大半を占め「上肢の浮腫はほとんどが乳がん、下肢の多くは子宮、卵巣、前立腺がんなどの治療後に発症している」と岡山大学病院形成外科の木股敬裕教授は言う。

 リンパ浮腫の病期は0〜III期に分けられる=表参照。がん治療後、むくみが急に出る人の一方、リンパ液の新しい通り道「側そく副路」が形成されて何年も発症しない人もいる。合併症として、細菌感染が原因で腕や脚に発疹ができ、赤く腫れる「蜂窩ほうか織炎」、細胞のすき間にたまったタンパク質や脂肪が変性し、皮膚が硬く厚くなる「象皮症」などがある。

 診断は問診や視診、触診、超音波検査などで行うが近年、「蛍光リンパ管造影法」が活用されている。体内のタンパク質と結合し、赤外線を照射すると光る薬剤ICG(インドシアニングリーン)を皮下注射し、リンパ液の流れなどをつかむ。同科は2006年に導入し「病態や良好なリンパ管の有無が分かり、診断や手術に役立つ」と木股教授。

 同科が00年の発足時から行っているのが、滞ったリンパ液の通り道をつくる「リンパ管静脈吻合ふんごう術」。11年までに通算約500件を手掛けた。

 局所麻酔後に皮膚を小切開し、直径1ミリ以下のリンパ管と静脈をつなぐ。「顕微鏡を見ながら、超微小な手術器具を操作するだけに、高度な技術が必要」という。片側の腕、脚では通常2、3カ所を計2〜3時間かけて手術するが、両脚の場合は4〜6カ所に上り3〜4時間かかる。入院はいずれも1週間。

 同科の調査では、吻合術後に患者の約40%は手足のむくみが軽快。複合的治療との併用で、明らかに腫れの引きがよくなった。現在中部、関西や九州などからも患者を集め、木股教授は「リンパ浮腫の悪化を防ぐには、複合的治療を欠かさず、早期に手術も行えば効果的」と説明する。

 同病院ではリンパ浮腫の予防に向け、新たな取り組みも開始。11年秋から、形成外科が産科婦人科などと連携し、がん手術と同時にリンパ管静脈吻合術を行っている。さらに、リンパ節の移植手術の導入も検討している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年02月06日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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