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(1)痛みなく「ふつうに歩く」を一緒に手に入れましょう~当院における人工股関節置換術の取り組み~ 岡山ろうさい病院リハビリテーション科部長・人工関節センター長 大森敏規

大森敏規氏

 高齢化社会になってきた現代において健康寿命を保つことが注目されています。健康寿命とは健康上のトラブルによって日常生活が制限を受けずに過ごせる期間のことです。腰痛や関節痛といった整形外科疾患はこの健康寿命を大きく損なうものです。今回は下肢関節疾患のなかでも股関節の痛みに対する治療である人工股関節(こかんせつ)について当院での取り組みを紹介します。

 ■人工股関節の適応疾患

 ・変形性股関節症

 股関節は大腿骨頭(だいたいこっとう)と呼ばれるボール状の骨と骨盤側の受け皿の形をした臼蓋(きゅうがい)でできている球関節です。日本人の特に女性に多いのが生まれつきこの受け皿の部分が小さい臼蓋形成不全です。小さい受け皿に負荷が集中し、軟骨が摩耗して変形性股関節症になります。

 ・大腿骨頭壊死(えし)

 原因が不明なことが多く大腿骨頭への血流が阻害され壊死に至る疾患です。多量の飲酒、ステロイドという薬の多量服用、骨折などの外傷でも発症することがあります。

 ・関節リウマチ

 関節リウマチでは関節内にある滑膜(かつまく)という組織に炎症が起こります。炎症により滑膜が増殖し、関節内の軟骨や骨を溶かし、関節破壊につながります。

 ・急速破壊型股関節症

 読んで字のごとく、急激に関節の変形が進行する疾患です。高齢者に多く、半年から1年の間に変形が進行し、初期から強い股関節痛があります。原因は不明な点も多いのですが、年齢とともに骨盤が後傾し、臼蓋による骨頭被覆の減少、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)による骨頭の脆弱(ぜいじゃく)性骨折、などがあげられます。

 ■人工股関節手術

 以上のような疾患で日常生活に痛みを感じている方への治療法の一つが人工股関節手術です。軟骨が摩耗し、変形してしまった関節面を人工関節に置き換えるものです。

 当院では人工股関節手術に3Dテンプレートを用いて入念な術前計画を行うようにしています。またその術前計画通りに手術が行うことができるようポータブルナビゲーションを使用し、より正確に人工関節の設置ができるように努めています。手術方法においても筋肉や腱(けん)を切らずに行えるALS(Antero―Lateral Supine)アプローチを用いています。これには術後の痛みが少ない、早期のリハビリテーションが可能になる、人工股関節の弱点である脱臼に強いといったメリットがあります。

 ただし、すべての患者さんへ同じアプローチで手術をしているわけではありません。一人一人、股関節の変形の程度や原因も違えば、体型、股関節の可動域も違います。それぞれの症例に最適なアプローチや人工関節を選択し、丁寧な手術を行うことを心がけています。

 また術後のリハビリテーションは当院で自宅退院まで行っております。術後約3週間で自宅退院となりますが、手術前の歩行能力やリハビリの進捗(しんちょく)状況は個人差がありますので場合によっては4~5週間入院してリハビリを行います。

 人工股関節手術は日々痛みを感じていた歩行、運動あるいは仕事といった日常生活の質を向上させる優れた治療法であると考えています。股関節の痛みで悩んでおられる方はいつでもご相談ください。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 おおもり・としのり 津山高校、高知大学医学部卒、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科修了。2018年より岡山ろうさい病院勤務。22年4月から現職。日本整形外科学会専門医。日本体育協会公認スポーツドクター。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年08月01日 更新)

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