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(3)血管内治療編 川崎医大総合外科学准教授 川崎医大川崎病院外科副部長 森田一郎

もりた・いちろう 京都府立山城高、川崎医大卒。川崎医大胸部心臓血管外科講師、川崎医大川崎病院外科部長などを経て2011年から現職。脈管専門医、医学博士。

【図1=ステントグラフト治療】上段の写真の手前がシース、奥がステントグラフト。下段のイラストは腹部大動脈瘤の治療

【図2=レーザー治療】

腹部大動脈瘤

 血管内治療とは、病変部に直接メスを入れることなく、血管内からカテーテル(細い管)やステント(網状の筒)等の器具を用いて病変を治療することを言います。今回は、腹部大動脈瘤(りゅう)のステントグラフト治療と下肢静脈瘤の日帰りレーザー治療についてお話しいたします。

 腹部大動脈瘤は突然死の代表疾患でもあり、破裂するまであまり症状を呈しません。静かな殺し屋なのです。しかし、最近は超音波検査やCT(コンピューター断層撮影)検査を受けられる頻度が多くなるにつれて破裂に至るまでに見つけることができるようになりました。通常の腹部大動脈径は約2センチですが、4センチ以上になると破裂の危険性が認められます。

 腹部大動脈瘤に対する治療は、今劇的に変化してきております。従来は、開腹して人工血管置換術が標準術式でしたが、1991年アルゼンチンのパロディ医師によりステントグラフトが臨床応用され、技術改良を重ねて現在にいたっております。

 ステントグラフト治療とは、図1のように人工血管と金属のステントを結合させたもの(ステントグラフト)をシースという筒の中に格納し、動脈瘤の近傍にまで血管内を誘導させて、動脈瘤部でシースからステントグラフトを放出し、動脈瘤全体を血管内から内張りさせて瘤に圧がかからないようにして、破裂の危険性から回避する治療です。

 この治療の最も優れている点は、両側鼠径部(そけいぶ)(脚の付け根)を5~6センチ切開するだけで、開腹せずに治療できるという、低侵襲性(体の負担が少ないこと)にあり、術後1週間で退院です。

下肢静脈瘤

 下肢静脈瘤は、血管疾患のうち最も多い疾患で、加齢とともに個人差はありますがほとんどの人に見られます。症状として、午後から夕方にかけて下肢のだるさ、むくみ、かゆみ、夜中のこむらがえりなどがみられます。ほとんどの静脈瘤では自然に治ることなく除々に病状が進行し、色素沈着をへて最悪下腿(かたい)潰瘍にまで至ることがあり注意を要します。

 治療としては、弾性ストッキング、硬化療法、ストリッピング術がありましたが、昨年1月よりレーザー治療が保険適応となり、治療の選択肢が一つ増加いたしました。当院(川崎医大川崎病院)も本年より導入いたしました。標準的なレーザー治療は図2のように、膝関節辺りの表在静脈に穿刺(せんし)し、静脈内に細いレーザーファイバーを挿入して大腿部のほぼ全長の表在静脈を焼灼(しょうしゃく)して静脈内腔(ないくう)を閉塞(へいそく)させ静脈瘤への逆流を断つ治療法です。下腿に静脈瘤が目立つ場合は、小切開で静脈瘤切除を追加いたします。

 このような低侵襲治療ですので、患者さんたちの兼ねてからの強い希望でもありました日帰り手術のための治療です。治療は受けたいが、入院はという患者さんには朗報です。合併症として深部静脈血栓症や静脈穿孔による皮下出血、創痛などがありますが、発生頻度は低率です。

 血管内治療は、患者さんの肉体的、時間的な負担を軽快する治療です。興味のある方はどしどし外来を受診してください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月16日 更新)

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