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(4)肝臓編 川崎医大総合外科学講師 川崎医大川崎病院外科医長 山田貴子 

やまだ・たかこ 東京医科歯科大医学部、京都大大学院卒。医学博士。京都大医学部付属病院、島根県立中央病院、神戸市立医療センター中央市民病院などを経て2011年から現職。国内外の肝胆膵外科・肝移植医療に携わる。日本外科学会外科専門医、日本移植学会評議員、日本肝臓学会肝臓専門医。

肝臓は右肋骨(ろっこつ)の下にあります。超音波を見ながら肝臓の中の血管を避け、肝臓実質に細い針をさして肝臓の一部(組織)を採取します。20分ほどの検査で、局所麻酔でできます。他にも、腹腔(ふくくう)鏡下肝生検があります。どちらも、日帰りか1日ほどの入院でできるため、患者さんへの負担は軽微です。

 お酒をたくさん飲むと肝臓が悪くなるということは、皆さんよくご存じと思います。しかし日本の肝炎・肝硬変の多くは肝炎ウイルスが原因です。また最近は、主に肥満による脂肪肝や、アルコールをあまり飲まないにもかかわらず、アルコール性の肝障害に似た病態を呈す非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の患者さんが増えてきています。

■アルコール性肝障害

 日本酒を1日3合以上・5年以上飲んでいる場合を常習飲酒家、1日5合以上・10年以上飲んでいる場合を大酒家と呼び、アルコール性肝障害を起こしやすいと言われています。女性は男性より少ないアルコールの量でなりやすく、ひとたび肝障害が起こるとその伸展が早いと言われています。特に、妊娠中の飲酒は胎児の脳に影響を与えると言われており禁物です。

 肝臓は「沈黙の臓器」といわれるように自覚症状に乏しく、長年のダメージが肝臓に蓄積して初めて「倦怠(けんたい)感」や「食欲低下」、時に「黄疸(おうだん)」に気付くことがあります。アルコール性肝障害は血液検査やCT検査など比較的簡単な検査で診断でき、一般的には禁酒で肝障害は急激に改善します。しかし肝炎が重症型になった場合や、肝硬変に至った場合には予後不良であり、そうなる前に早い段階での医療機関への受診をお勧めします。

■NASH

 NASHの原因はまだ完全には分かっていませんが、肥満の方(BMIが25以上)、閉経後の女性、糖尿病の患者さんにはNASHの発生率が高いと言われており、患者数もここ数年で急激に増えてきています。正しい診断のために、肝生検=図(1)参照=が唯一の手段となります。一部の患者さんは肝硬変や肝臓がんに伸展するため、大変怖い病気ですが、脂肪肝の段階で運動・食事など生活習慣の改善と糖尿病・高血圧などの治療を行うと、NASHに伸展しない場合があります。脂肪肝は超音波やCT検査で診断ができます。

■肝硬変

 肝硬変は専門的には「慢性肝炎の終末像」と言われ、B型・C型肝炎ウイルスが原因の多くを占めます。他にも、アルコール性、自己免疫性などがあります。

 「肝臓が硬くなる=肝臓の中の線維化が進むこと」ですが、ではなぜ肝臓で線維が増えるのでしょうか。機序(仕組み)として、(1)肝炎など炎症の後にそれを修復するために線維が増加する(2)線維を作る細胞が活性化される―の二つが言われています。肝炎ウイルスによるものは主に(1)、アルコール性肝障害の患者さんでは(2)の機序で、さらに、NASHの患者さんでは(1)と(2)の両方の機序で線維化が進むと言われています。代謝、解毒、たんぱく・消化液(胆汁)合成などたくさんの機能を持つ、いわば「おなかの中の化学工場」ともいうべき肝臓が、線維に置き換わっていってしまうため、いろいろな症状・合併症がでてきます=図(2)(3)参照。また肝臓が悪くなることで、心臓・肺・腎臓にも大きな影響を与えることが分かっています。

 肝硬変の重症度は血液検査=アルブミン(Alb)、総ビリルビン(T―Bil)、プロトロンビン時間(PT時間/活性)=と、腹水・肝性脳症の有無や程度で判定します。かつて、肝硬変の患者さんの死因は、肝不全、消化管出血、肝細胞がんが3分の1ずつを占めていましたが、最近では約70%が肝細胞がんで、20%が肝不全、消化管出血は10%以下となりました。これには内視鏡的治療技術の進歩、残存肝機能維持療法の進歩が大きく寄与しています。

■肝細胞がん

 肝細胞がんに患っている患者さんの75%は肝硬変を、25%は慢性肝炎を伴っています。このように肝臓がんを発症する高危険群が分かっていますので、肝炎や肝硬変で定期的に医療機関にかかられている患者さんは、早期に肝臓がんを発見することができるのです。主に、腫瘍マーカーや画像(超音波・CT・MRI)検査でスクリーニングを行います。

 がんの治療として内科的治療と外科的治療がありますが、肝予備能が保たれていて、主に腫瘍が3個までのとき肝切除が選択されます。また、肝硬変のある患者さんで肝臓がんを併発したとき、肝移植の適応になります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月21日 更新)

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