文字 

(5)鏡視下手術編 川崎医大総合外科学講師 川崎医大川崎病院外科医長 繁光薫 

 しげみつ・かおり 県立児島高、岡山大大学院医学研究科卒。医学博士。同大学院医歯薬学総合研究科消化器腫瘍外科、岡山済生会総合病院救急科医長などを経て2010年から現職。日本食道学会評議員、同食道科認定医。

腹腔鏡手術イメージ図

 鏡視下手術(胸腔きょうくう鏡、腹腔ふくくう鏡など)は、体壁に小さな穴をあけ、そこから体内にカメラや手術器具を入れ、テレビモニター上に映し出された映像を見ながら行う手術のことです。腹部では視野を得るために炭酸ガスを注入してスペースをつくります。大きな傷をあけなくてすむので、一般的に術後の痛みだけでなく、体へのダメージが少ないため、早期に回復、社会復帰できる体にやさしい手術です。麻酔は主に全身麻酔を用い、呼吸・循環の監視下に手術を行います。

■開腹・開胸手術と目的は同じ

 鏡視下手術というと全く異なった手術のように感じるかもしれませんが、行う手術、手術の目標・到達点は従来の手術と変わりません。ただ、アプローチの仕方が違うだけなのです。ある目的地に向かうのに、歩いていくのか、車で行くのか、新幹線あるいは飛行機で行くのか、状況に応じて最も安全・確実で快適な方法を選ぶ。手術も同じで、病気を治すための手術という目的に対し、患者さんの状態や病気の状況に応じて最も適切なアプローチの仕方を選択するよう心がけています。鏡視下手術はそのアプローチ法のうちの一つです。

■鏡視下手術ができる外科的疾患

 1990年ごろから普及した胆のう摘出術に始まり、現在ではさまざまな疾患を対象に行われるようになっています。当院(川崎医大川崎病院)でも、以下の疾患に対して鏡視下手術を行っています。

 気胸、肺がん、縦隔腫瘍▽食道がん、食道裂孔ヘルニア、胃食道逆流症▽胃がん、胃・十二指腸潰瘍穿孔せんこう、急性虫垂炎、腸閉そく▽大腸がん、結腸憩室炎▽肝がん、肝嚢胞のうほう、胆石症、急性胆のう炎、膵すい良性腫瘍、脾腫ひしゅ▽鼠径そけいヘルニア、後腹膜腫瘍―など。

■鏡視下手術のメリット・デメリット

 <メリット>

 ・きずあとが小さく、あまり目立たない。

 ・創が小さいため、術後の痛みが少ない。

 ・回復が早く、手術後早い時期から歩行や食事ができる。

 ・入院期間が短く、早期の退院・社会復帰ができる。

 <デメリット>

 ・手術操作の制約のため、手術時間が長くかかることがある。

 ・気腹(腹腔内に炭酸ガスを入れてスペースをつくること)が必要なので呼吸や循環に影響を及ぼすことがある。

 ・視野の制約のため、手術部位以外の臓器損傷を来しうる。

 ・操作に高度な技術を要する。

■進化する鏡視下手術

 1990年ごろより導入された腹腔鏡下胆のう摘出術は急速に普及し、すでに標準術式となっています。この20年間で鏡視下手術は良性疾患だけでなく悪性疾患にもその対象を広げ、さらに早期がんから進行がんやもっと複雑な手術にも行われるようになっています。それに伴ってさまざまな手術器具や技術が開発され、手術をより安全・確実に行えるようになっています。当院でも、今後はロボット手術など、鏡視下手術をより安全に、精密に施行しうる機器の導入も視野に入れています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年06月04日 更新)

ページトップへ

ページトップへ