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(5)移植コーディネーター ドナー出現 深夜も対応

執刀医の八木教授と打ち合わせする保田さん(左)。脳死移植が決まれば忙しさは倍増する=岡山大病

 2010年の改正臓器移植法施行で脳死ドナー(臓器提供者)が急増し、身近になりつつある移植医療。肝臓、肺などの移植が可能な岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で、執刀医らを支えるのが「移植コーディネーター」だ。

 同大病院には4人が在籍。看護師資格を持ち、臓器別に担当する。最もキャリアが長いのは肝移植の保田裕子さん(39)。「以前から興味があった」が、手術室看護師だった06年に白羽の矢が立ち、翌年4月から務める。

 手術予定が事前に組まれる生体移植に加え、ドナーの出現で突然始まる脳死移植への対応…。日をまたぐこともある不規則な勤務にも「自分が動かなければ、助かる患者さんが助からなくなる。移植の成功を支えるのが使命」とする。

 同大は法改正後の2年間だけで脳死肺、肝移植を計32例実施。生体移植も並行するだけに、多忙に拍車がかかる。

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 「岡山大の患者さんが第一候補です」。同大病院の移植医やコーディネーターには、脳死臓器提供を受けるかどうかを確かめる電話が、昼夜を問わず掛かってくる。

 相手は臓器の斡旋機関・日本臓器移植ネットワークの職員。脳死ドナーが現れると、臓器別に候補者が決まり、移植病院に一報が入る。返事の猶予はわずか1時間。保田さんがまず始めるのがレシピエント(移植患者)の意思確認だ。入院患者は医師が直接本人に聞き取るが、自宅待機の場合は保田さんが深夜でも電話を入れる。

 移植決定後は、肝胆膵外科の臓器摘出チームが提供病院に向かう経路を選定。チケットや手術室の確保、関連診療科への連絡などを同時にこなし、「息つく間もない忙しさ」という。手術が始まれば、経過の記録係として手術室にも入る。執刀医の八木孝仁教授とは5年の信頼関係があり、「任せておけば安心」な存在だ。

 通常業務としては月、水、金曜に移植後の患者が定期的に訪れる外来診療前に健康状態などを確認し、医師の診察につなげる。火、木曜は手術日のため、生体肝移植があれば手術室へ。空き時間には移植ネットへの患者登録の準備やデータ整理などが待っている。

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 岡山大病院での移植コーディネーター誕生から8年たった昨年、保田さんらに朗報が届いた。日本移植学会が「レシピエント移植コーディネーター」の資格認定を正式に開始。さらに本年度からコーディネーターが携わる「移植後患者指導管理料」が診療報酬に追加。同大では未実施だが、体制が整えば業務への報酬が病院の収入となる。公的には位置づけがあいまいだっただけに「私たちの仕事が明確化される」と喜ぶ。

 一方で、気がかりなこともある。西日本有数の移植病院ながら、岡山大ではいまだ脳死による臓器提供ができておらず、「臓器を受け取るだけ」と指摘される点だ。移植医療に不可欠な臓器提供の実現へ向け「病院の内外を問わず、移植の認知度を一層高めたい」と表情を引き締めた。

=おわり
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月23日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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