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(9)悪性疾患に伴う消化管狭窄とステントの話 川崎医大総合内科学2教授・川崎医大川崎病院内視鏡センター長、内科部長 河本博文

かわもと・ひろふみ 倉敷青陵高、岡山大大学院医学研究科卒。医学博士。広島市民病院、岡山大学病院を経て2011年から現職

胆管がんで十二指腸と胆管が狭窄し、ステントがそれぞれに挿入されたところ

左から大腸用ステント、十二指腸用ステント、胆管用ステント(カバー付き)、胆管用ステント(カバー無し)

 消化器は口から肛門までの一続きになった管ですが、十二指腸で胆管と膵(すい)管という管を介して肝臓と膵臓が結合しています。主な仕事は、食べたものの消化、栄養吸収、排せつであることは理解していただけると思います。

 現在、わが国では肺がんががん死のトップでありますが、消化器臓器である、食道、胃、大腸、膵、胆道にできるがんを合わせればがん死のトップは消化器になります。がんが消化器にできた場合、外科で切除してもらうのが一番の治療なのですが、進行してしまったケースでは、残念ながら切除に至らないことも多くあります。

 さて、消化管にがんができた場合、それに伴う症状の一つに狭窄(きょうさく)症状があります。がんが大きくなって、内腔(ないくう)をふさぐために起こる症状です。つまり、そこを通る食物、便、胆汁が通過できなくなるために起こる症状と考えてください。

 食道では、食べたものがすぐに通らないので、すぐに戻してしまうかあるいは食べ物が引っかかったような症状が出ます。胃ですと食べたものの排出が悪くなるため、食後におなかが張ってきて、限度を超えると嘔吐(おうと)症状として現れます。大腸ですと便を出せないため、おなかが張って腸閉塞(へいそく)の症状(腹痛、嘔吐)が出てきます。胆道では、肝臓で作られた胆汁が腸管に出せなくなるので、黄疸(おうだん)が出てきます。最初は症状が無くても肝不全や胆管炎を起こしてしまいます。小腸や膵管狭窄もありますが、特殊ですのでここでは触れないことにします。

 これらの症状に対する治療として、外科の方でバイパス手術を行い、症状を和らげる(緩和する)方法もありますが、体の負担が少ない低侵襲治療としてステント治療があります。ステントとは金属で編んだ筒のようなものです。胆管で用いるものの中にはプラスチック製のものもあります。がんでふさがったところにこのステントを入れることで通過障害を改善させるわけです。現在、金属でできたステントは食道、胃、十二指腸、胆管、大腸で保険が通っていて、進行がん患者の症状緩和に大きく役に立っています。

 これらのステントはどのようにして入れるのでしょうか。いずれのステントも外科的な手術で入れるのではなく、内視鏡を用いて口からあるいは肛門から入れることができます。つまり体にメスを入れる必要がないわけです。なお胆管ステントは内視鏡で入れる以外におなかに針で小さな穴をあけてそこから入れることも可能です。

 このステントのおかげで食事がまたできるようになったり、体からチューブが出た不自由な状態から解放されたりします。つまり、生活の質の向上が期待できるわけです。また、低侵襲で行えるわけですから、回復が早く、必要な患者には抗がん剤や放射線を用いた手術以外の治療が早く行えます。なお、内視鏡を用いたステント治療は経験が豊富な施設で行った方が安全に行え、トラブルに対する対応も迅速ですのでそういった施設で受けることをお勧めします。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年08月27日 更新)

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