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(9)うつ病での休職・復職 小川クリニック(岡山市)院長 小川俊彦

おがわ・としひこ 岡山朝日高、岩手医科大医学部卒、岡山大大学院修了。公立上下湯ヶ丘病院、岡山赤十字病院神経内科、山陽病院などを経て1994年開業。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本医師会認定産業医、岡山県精神神経科診療所協会会長。

 最近の長期にわたる経済不況のためか、労働環境は厳しさを増しており、多くの勤労者がうつ病・うつ状態で休業している印象を受けます。うつ病の回復には時間がかかり一般に数カ月から数年の治療期間を要します。症状が重ければ医師の指示に従って仕事を休まざるをえませんが、休業が長期にわたると職場復帰が困難になることも予想されます。

 これに対し、厚生労働省は2004(平成16)年10月「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を発行し09(平成21)年3月にはその改訂版を出しています=表参照。これには、うつ病などで長期休業した労働者の職場復帰に対して、事業者がとるべき手続きが示されていますので、今回はこれをご紹介いたします。

 第1ステップは、労働者が休職のため主治医の診断書を職場に提出してから、病状が改善して職場復帰を希望するまでの期間です。

 ここで、大切なのは休業するのに必要な情報を労働者に提供することです。すなわち休業可能な期間、傷病手当金、相談先の紹介、公的または民間の職場復帰支援サービスなどです。特に休業できる期間が明確になっていないと安心して療養できません。また、連絡先となる職場の窓口も伝えておきます。

 休職中の労働者から事業者に対し職場復帰の意思が伝えられると職場は労働者に主治医から復職可能の診断書を出してもらうよう伝えます。これが第2ステップです。

 ただし、この時の主治医の診断書は日常生活における症状から職場復帰の可能性を判断していることが多いのです。家庭内での適応状態と仕事上要求される回復レベルとの間にはギャップがある場合もあり、第2、第3、第4ステップでその間を調整していきます。

 第3ステップは職場復帰手続きの中心部分です。ここではまず、職場復帰の可否の判定を行います。労働者や職場などの情報を集め、産業医の面接などを経て決定します。労働者の情報を主治医に問い合わせるときには、必ず本人の許可が必要です。そして、得られた情報は必要最小限のスタッフ以外には知られないように管理しておかなければなりません。また、主治医に意見を聞く際に面談料や文書料が発生することにも留意しておく必要があります。

 次に、残業の制限や、人間関係の調整など就業上の配慮を行い、さらに復職後、誰が当該労働者の管理や評価を行うのかを決めていきます。

 第4ステップでは、職場復帰の日時、就業上の配慮の内容を確定します。内容は必ず本人に確認してもらいます。そして、いよいよ復職です。

 第5ステップは復職後のフォローアップの時期です。職場は指示が適切に実行できているか、仕事の負荷が適切かを評価します。また、症状の再発や悪化がないかを確認します。これらを定期的にくり返し、労働者の再休職を防ぎます。

 このほかに利用できる社会資源として、各都道府県に設置されている障害者職業センターがあります。障害者職業センターは職場復帰のためのリワーク支援プログラムを持っています。

 また、独自の復職プログラムを持っている企業や団体ではそれを利用することもあります。

 産業医のいない小規模事業所では、労働者のメンタルヘルスケアに地域産業保健センター等を利用します。

 以上、主に事業者が行う復職の手続きについてご紹介いたしましたが、労働者の側からもあらかじめ復職の流れを理解しておくことは有用です。休職後、病状が改善したら、主治医と相談し、職場と連絡をとったり社会資源を活用したりして、早期の社会復帰を目指していただきたいと思います。うつ病の人の復職が成功することは、個人にとってはもちろん、企業や社会にとっても大きな利益をもたらすことになるのです。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年10月01日 更新)

タグ: 精神疾患

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