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(5)薬の供給不足 菊岡 亮 製造工程の不備が影響

菊岡 亮氏

 「すみません。今この薬は在庫がなくて、お渡しできないんです」

 薬局や病院に処方箋を持って行った時、このような言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか?

 ■薬不足

 新型コロナウイルスの世界的流行から、今年で4年目になりました。流行の初期の全国的なマスク不足は皆さんの記憶に新しいかと思います。当時のマスク不足と同じように、一部の薬が全国的に手に入りにくくなっています。では、なぜこのような状況になっているのでしょうか?

 その原因の一つとして、コロナウイルス感染拡大により、解熱薬やせき止めなど治療薬の処方量が増加したことがありますが、より大きな問題として、薬の製造過程で生じた問題が関係しています。この問題では、製造された抗真菌薬(カビの治療薬)の中に睡眠薬の成分が混入していたために、その薬を服用した患者さんに健康被害が生じました。

 今回の記事では、薬の製造不備によって薬の供給不足をもたらした背景について紹介していきます。

 ■悪循環

 薬を製造するためには、どの工場でどのような製造工程で作るかを薬ごとに国に届け出て、許可を得る必要があります。そして、工程を変更する場合には、改めて変更を届け出る必要があります。

 誤った薬物が混入していた問題では、事後の調査により、工場の複数の製造工程において国の定める基準を逸脱していることが明らかとなりました。結果として、製造工程を見直すために薬の製造がストップすることになりました。

 この問題が生じて以降、さまざまな製造工場において調査が行われ、一部の工場では不備が指摘され、改善が求められました。

 結果的に「業務停止により薬の生産量が減る」
     ↓
 「同じ薬を製造している別工場に注文が集中する」
     ↓
 「生産能力を超えた注文に生産が追いつかない」
     ↓
 「薬の出荷が制限される」
     ↓
 「病院・薬局に薬が入りにくい状態となる」
     ↓
 「患者さんの手元に薬が届かない」

 と、このような悪循環を生じてしまい、薬が不足している状況となっています。

 ■多くの人に影響

 多くの工場では、正しい製造工程に沿った薬の製造を行うため、業務改善に向けた取り組みを行なっています。しかしながら、全ての問題が解決し薬の供給不足が解決するためには、まだ数年かかるとみられています。

 薬の製造工程における不備の問題は全国的な薬の供給不足をもたらし、多くの人に影響を与えたという事実は覆すことができません。一方で、別の角度から見ると、製造工程の不備を見直すことで、より安全で品質の良い薬の製造を目指す契機となったとも考えられます。

 昨今の薬の供給不足が早く解消し、必要な時に必要な薬を患者さんに適切に服用していただける、そんな当たり前の日常が1日でも早く戻ることを期待しています。

 きくおか・りょう 岡山大学薬学部薬学科卒業、同大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程修了(医学博士)。2021年4月より岡山大学病院薬剤部入職、現在に至る。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年02月06日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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