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(4)最先端医療を地域のみなさまへ―進化する低侵襲膵臓手術― 岡山済生会総合病院診療部長(外科) 児島亨

児島亨氏

 膵臓(すいぞう)がんは現在日本のがんによって亡くなる人の中で4番目に多いがんです。非常に治りにくいがんとしても有名です。手術が可能かどうかで病期を分類し、可能なものに対しては「手術療法+抗がん剤治療あるいは放射線療法」を行うことが一般的です。

 膵臓手術(膵臓がんも含みます)は、従来は開腹手術が基本でした。膵臓手術は手術の傷が大きく、また手術時間もかかり体の負担が大きい手術でした。より体に負担の少ない(低侵襲な)手術を目指して、膵臓手術においても腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術が導入され、広く行われるようになってきました。

 近年では、それに手術支援ロボットを使用した腹腔鏡下手術が可能となり、低侵襲手術はさらに進化してきています。当院で行っているロボット支援下膵臓手術についてご紹介します。

 【ロボット支援下手術とは】

 ロボット支援下手術は、本邦では前立腺手術で最初に保険医療となり、現在では多くの領域で行われています。腹腔鏡下手術では術者は患者サイドに位置し、不自然な体勢で長時間手術を行います。一方、ロボット手術では、術者はサージョンコンソールと呼ばれるボックスに座り、より肉体的・精神的な負担の少ない環境で手術操作を行います。

 また、腹腔鏡下手術に用いる手術用鉗子(かんし)は直線状であるため手術操作方向に制限が加わり、このことが腹腔鏡下手術の困難さの主な原因となります。一方、ロボット手術では、多関節機能を有するコンピューター制御された鉗子を用いて手術を行うため、自由度が高く非常に精緻な操作が可能となります。手ぶれ防止機能も有しています。

 膵臓周囲の解剖は複雑であり、重要な血管などが多く手術操作に繊細さが要求されます。膵臓の右側(頭部といいます)の膵切除では、膵や胆管と小腸などを縫い合わせる必要があり(再建といいます)、細かく精密な動きが可能なロボット手術は膵臓手術に向いているといえます。

 ロボット手術においても欠点があります。その最大のものは触覚の欠如です。現在使用可能なロボットは触覚が欠如しているため、視覚のみに頼って手術を行います。当院ではこういった欠点に十分に注意をはらい、安全性に配慮してロボット手術症例を重ねてきました。

 【膵臓がんに対するロボット支援下手術】

 ロボット手術は開腹手術と比べ、手術後の回復が早く、退院も早くなってきています。そのため手術後の抗がん剤治療を早期から開始することができ、結果として膵臓がん自体の治療成績の向上が期待できます。

 もちろん全ての膵臓がんがロボット支援下に手術ができるわけではありません。がんの位置や進行度により、開腹手術が行われることもあります。当院では患者さんそれぞれの状態にあわせ、最適な手術法を選択するようにしています。今後も地域の皆さまへ安全で高度な医療を提供できるように努めてまいります。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 こじま・とおる 岡山大学医学部卒業。岡山大学病院、広島市民病院、国立がん研究センター等での研修を経て2009年より岡山済生会総合病院勤務、23年4月より現職。日本外科学会専門医・指導医、日本肝胆膵外科高度技能専門医、日本内視鏡外科技術認定医、肝臓・すい臓ロボット支援手術プロクター認定(ロボット手術指導医)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年04月20日 更新)

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