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(7)特定看護師の役割 岡山済生会総合病院中央手術室主任看護師 小泉匡司

静脈麻酔薬で入眠し、自発呼吸ができなくなった患者の顔にマスクを密着させ、空気を肺に送って補助換気をしている

中心静脈カテーテルを腕から挿入している

小泉匡司氏

 2015年10月から「特定行為に係る看護師の研修制度」がスタートしました。この研修を修了した看護師(特定看護師)は、あらかじめ医師から手順書と呼ばれるプロトコルによる包括的指示を受けておくことで、直接指示を待つことなく高度な診療の補助である「特定行為」を実施することができます。

 超高齢社会を迎え年々医療の需要が増す中で、特定看護師は限られた医師のマンパワーを有効に活用する人材として期待されています。特定行為には38の種類があり、私は手術中の全身麻酔管理に必要な8行為と末梢留置型中心静脈注射用カテーテル(PICC)挿入の計9行為の研修を修了しています。

 麻酔管理においては、麻酔科医師と情報を共有し、担当する患者さんの麻酔プランについての包括的指示を受けます。

 例えば「Aさんは高血圧症の既往があるから、手術中はあまり血圧を下げ過ぎず〇・〇mmHgの範囲で維持するように」といったような指示です。このように、あらかじめ指示された範囲でバイタルサインを維持するために、投薬や人工呼吸器の設定変更などを行います。協働する麻酔科医師と常に連絡を取り合える体制を整えることで、安全な麻酔管理を行っています。

 当院ではさまざまな診療科の手術を行っています。手術内容や併存疾患の有無などにより、麻酔管理の難易度も大きく異なります。特定看護師が比較的リスクの低い麻酔管理を担うことで、麻酔科医師はより高度な知識と技術が必要とされる麻酔管理に注力することができるようになります。

 経口摂取が難しい方に高カロリーの点滴を投与したり、長期間の持続点滴治療を必要とする場合などでは、心臓近くの静脈にまで達する中心静脈カテーテルを挿入します。

 PICCとは、上腕の静脈から挿入する中心静脈カテーテルのことです。一般的な中心静脈カテーテルは首付近の頸(けい)静脈や鎖骨下静脈から挿入するのですが、誤穿刺(せんし)により近傍の動脈を傷つけたり、胸腔(きょうくう)に穴があき肺がしぼんでしまう気胸という合併症を起こしたりすることがあります。上腕から挿入することで、このような合併症のリスクを避けられることがPICC最大の利点です。

 加えて、消毒などの管理が容易で挿入部を密閉すればシャワー浴ができるなど不自由が少ないため、入院生活の質を高めることも期待されています。

 特定行為については医師からのタスクシフトに目が向けられがちですが、看護の視点と気付きをタイムリーに反映した医療を提供できる手法でもあります。手術看護認定看護師として培った経験をいかし、質の高い周術期医療の実践に努めています。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)。連載は今回で終わりです。

 こいずみ・まさし 愛媛医療技術大学卒。済生会今治病院を経て、2008年4月より岡山済生会総合病院に勤務。18年4月から中央手術室主任看護師。14年に手術看護認定看護師資格を取得、22年3月に看護師特定行為研修修了(術中麻酔管理領域・末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年06月19日 更新)

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