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作業療法士 倉敷平成病院リハビリテーション部主任 西悠太さん(39)

「容体が安定した回復期は患者さんの伸びしろが大きい」と西さんは言う。「1回1時間のリハビリで、指が曲がるようになった、肘が伸ばせるようになったなど、毎回、成果が出せるよう努力しています」

脳内出血のため手足にまひが残る男性にリハビリを施す西さん。「解剖学や運動学の知識を使い、患者さん本来の、ノーマルな形で動かせるように調整しています」

3年前に脳梗塞を発症し、今は倉敷平成病院の訪問リハビリを利用する80代の女性(左)。作業療法士の平田詩織さん(27)の指導で、まひが残る左手の回復に向けて練習に取り組んでいる=倉敷市内

 「手を伸ばしますね。1、2、3、4」

 倉敷平成病院(倉敷市老松町)1階にあるリハビリテーションセンターの一角。作業療法士の西悠太さん(39)は、仰向けになった患者の肩と手首に手を添えて、まっすぐに伸ばした腕を大きく、弧を描くように動かしていく。

 「1、2、3、4、痛みやしびれはありませんか」

 うなずく患者は50代の男性。脳内出血のため手足にまひがある。「まひによって筋肉が弛緩(しかん)しているので、関節や筋肉を正しい位置に戻して筋肉の収縮を促しています」。西さんはそう説明した。

■残存機能引き出す

 脳神経疾患の専門病院として1988年に開院した倉敷平成病院は脳卒中などの急性期治療に当たる中、早くからリハビリの重要性に着目し、レベルアップに努めてきた。回復期リハビリテーション病棟は91床。作業療法士や理学療法士、言語聴覚士、公認心理師といったスタッフは関連施設を含め143人を数える。

 西さんは「リハビリは単なる機能回復訓練ではない」と言う。脳卒中など重い病気やけがをした人は、高度な医療によって一命を取り留めたとしても、障害が残って元の暮らしに戻るのが難しい場合もある。

 作業療法士が目指すのは、残存機能を最大限引き出し、勇気づけ、今のその人に適したスタイルで生活を取り戻すことにある。そのためには介護保険制度を活用した住宅改修など生活環境の整備も視野に入れる。

■家族や職場の協力

 作業療法士が受け持つ範囲はとても広い。「作業」というのは箸やスプーンを使って食事をしたりトイレに行ったりするほか、着替えや自宅内の移動、入浴、調理、買い物などの外出、趣味、仕事といった日常生活に関わる全ての活動を意味しているからだ。

 例えば、片まひになった患者が自宅に戻り、家族のために食事を作りたい場合、動かせる片方の手だけで包丁などを使って野菜を切ったり皮をむいたりしなければならない。そのため具材を固定する釘が突き出たまな板や、握りやすいようグリップの付いた包丁などを使い、入院中から調理の練習に取り組む。

 退院が近づけば患者宅を訪問する。キッチンの高さや浴室、トイレの手すりの有無など使い勝手を見て、改修を提案したり家族ができる支援を助言したりする。

 10年ほど前、脳出血で入院した40代の男性患者がいた。重度の片まひが残ったため、それまでの工場勤務は難しくなった。会社は男性の復帰に向けて事務職を用意した。その話を受けて西さんは、男性のため片手でパソコンが使えるようにする練習を準備した。会社事務所は2階にあると聞き、階段昇降のリハビリも施したという。

 「家庭や職場に戻れるかどうかは患者さんの自立度に左右されるのは確かだが、実は家族の思いや職場の協力がとても大きい」と西さんは強調する。

■広がる活動の場

 今、作業療法士のニーズは高まっている。高齢化が急速に進む中、脳卒中や心疾患、骨折などをした患者のリハビリだけでなく、認知症患者と家族の支援、介護予防のリハビリ、障害者の就労支援、放課後児童クラブ(学童保育)で発達障害のある子どもたちが過ごしやすい環境を指導者と協力して整えるなど、多様な活動を見せている。

 「作業は人を元気にする」と西さんは言う。「作業」を通じて社会とつながることで大人も子どもも自分の役割や価値を再発見し、さまざまな生きづらさを乗り越えて、新たな一歩を踏み出そうとする。「その人にふさわしい、これからの“人生の物語”を紡ぐ、そのお手伝いができれば」と西さんは考えている。

     ◇

 にし・ゆうた 真庭市(旧八束村)出身。YMCA米子医療福祉専門学校を卒業し、2006年4月に倉敷平成病院入職。ほとんどが回復期リハビリ病棟での勤務だが訪問リハビリも1年間経験した。妻も作業療法士。もうすぐ2歳になる長女がかわいいと言う。

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 作業療法士 理学療法士や言語聴覚士らとともに、医療や介護現場などでリハビリを担う国家資格。運動や感覚・知覚など基本的動作能力、食事やトイレ、家事など日常で必要となる応用的動作能力、地域活動への参加や就学・就労など社会的適応能力の維持・改善を図る。国家試験を受験するには養成課程のある大学や専門学校などで学ばなければならない。有資格者は2023年4月現在で10万8872人。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年06月19日 更新)

タグ: 倉敷平成病院

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