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薬剤師 岡山赤十字病院薬剤部病棟業務第二課長 花房伸幸さん(41) 和と笑顔で患者に奉仕

退院を間近に控えた患者を訪ね、談笑する花房さん

患者が服用している薬の情報をパソコンで確認する花房さんら

後輩に吸入薬の使用について指導をする花房さん(右端)

薬の調剤をする花房さん

 常に「和」と「笑顔」で同僚や患者に接することを心がけている。チーム医療を実践し、患者との信頼関係を築くために、必要なことだと思うからだ。

 「いよいよ明日退院ですね。1カ月間、よう頑張りましたね」。11月のある日。花房さんは80代の男性の病室を訪ね、眼鏡の奥の目を細めた。「おかげで元気になりました。ようやく家に帰れます」と男性。滞在時間は10分余り。病室には穏やかでゆったりとした時間が流れた。

■45人を定期訪問

 500人が入院できる岡山赤十字病院(岡山市北区青江)。花房さんは病棟業務として45人を担当し、週に1回程度を目安に服薬指導などに出向く。

 会話が弾むよう、患者の話すスピードや声の大きさに合わせて話すよう努めている。相手によっては岡山弁を使うこともある。入院してきた人には「頑張らにゃおえんな」、退院の際は「十分用心してえな。もうここに来ちゃおえんよ」と。

 「点滴が痛い」「薬を飲み込みにくい」といった一般的なことはもちろん、がんの治療を巡り、「つらいからもう治療をやめたい」という深刻な相談を受けたことも一度や二度ではない。そんな時は「人生を左右する大切な問題だから、先生にしっかり相談してください」と語りかける。

■組み合わせに注意

 新たに入院する患者に対しては持参した薬を鑑別し、医師から処方される薬との飲み合わせに問題がないかを把握する。複数の薬が出される場合も、薬効を高めすぎたり逆に弱めすぎたりすることがないよう注意を払う。

 服薬指導と並ぶ日々の仕事の柱が調剤業務。カルテを確認しながら、各病棟の薬剤師、医師、看護師と連携しながら業務を行っている。

 近年最も警戒しているのが、抗菌薬(抗生物質)が効かない薬剤耐性菌と感染症。花房さんは感染制御認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師の資格を持ち、院内の感染対策兼抗菌薬適正使用チームの一員として、各病棟を担当する薬剤師や医師からの抗菌薬に関する相談に乗っている。「私の提案通りに抗菌薬が投与されることも多く、患者の命を預かっている責任の大きさを実感する」と言う。

 日赤救護班の一員として、2016年の熊本地震で熊本市、18年の西日本豪雨で倉敷市真備町入りした。避難所で被災者の相談に乗ったり、提供できる薬の種類と量が限られる中、最大の効果が見込まれる薬の選択を医師に助言したりした。「貴重な経験をし、仕事への自信が増した。今後も必要とされれば被災地に行き、薬剤師の務めを果たしたい」と誓う。

■最先端の知識習得

 同院の薬剤師は33人。病棟業務第二課長として若手の育成にも当たっている。とはいえ、若い頃は失敗もあった。今でも恥じ入るのが、入職して間がない頃、退院する患者に薬を渡し間違えたこと。「袋の名前が違っている」と連絡が入り、大慌てで自宅に正しい薬を届けた。

 医療現場では千数百種類の薬が使用されている。がんや糖尿病などの治療薬は日進月歩だ。その一方で、抗菌薬の開発が世界的に停滞し、国内では供給が不足している現状に危機感を募らせる。

 毎年、薬剤師会などが全国各地で主催する学会に出席し、最先端の知識の習得に努めている。

 「周囲から頼りにされ、幅広い薬の知識を深めるとともに、国内外の医療現場で大きな問題となっている抗菌薬の適正使用や感染制御に関する専門性を磨きたい」

 はなふさ・のぶゆき 岡山市出身。伯父宅が薬局で、地域に根ざし近所の人から親しまれている雰囲気に好感を抱き、薬剤師を志した。岡山大薬学部卒。同大大学院医歯薬学総合研究科修士課程修了。院生時代に岡山赤十字病院で実習したこともあり、2008年に同院に入職した。2歳の長男と一緒に遊ぶのが最も幸せな時間という。

 薬剤師 6年制の大学を卒業し、国家試験に合格する必要がある。全国に約25万人が薬局や病院、製薬会社などで働いている。病院勤務の場合、調剤、注射薬や点滴の調製・管理、服薬指導、在庫管理、血液中の薬の濃度を測定し投与量や投与方法を決定する薬物治療モニタリングなどを行う。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年11月20日 更新)

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