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インフル感染のピーク拡大 全ての臓器診療に対応 感染症内科 萩谷英大准教授

萩谷英大准教授

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に引き下げられ、7カ月がたった。感染者はこのまま減少し続けるのか。インバウンド(訪日客)や渡航者が再び増加する中、再拡大したり、インフルエンザとの同時流行が起こったりする可能性はないのだろうか。岡山大学病院はどのように感染症の予防や治療に取り組んでいるのか。同病院感染症内科の萩谷英大准教授に聞いた。

 ―新型コロナウイルスの感染が落ち着いていますが、今後どのように推移するでしょうか。

 8月中旬から下旬に感染者報告数のピークがみられ、その後は減っています。ただ、油断はできません。東京都のゲノム解析データによると、海外から持ち込まれた変異株が国内で増えていることが分かっています。行動制限がなくなった今、都市部で起きていることは岡山でも起きていると考えるのが妥当です。変異株における免疫逃避(ウイルスがヒト免疫から逃れて感染・増殖すること)の結果、ワクチン接種者も過去に感染したことがある人も再感染するリスクがあり、12月以降に再流行すると考えています。

 ―現在は感染しても軽症で済むことが多いようですね。

 肺炎による呼吸不全でICU(集中治療室)での治療が必要になるなど、重症化する人は今も一定数います。特に高齢者は重症化のリスクが高く、基礎疾患がなくても重度の肺炎を発症することがあります。

 ―総合内科・総合診療科に開設しているコロナ後遺症外来の受診状況はいかがでしょうか。

 感染の急性期後、1カ月ほどたって後遺症の受診が多くなります。第9波の感染状況が一段落した今も、外来はコンスタントに予約が入っています。オミクロン株が主流となって以降、急性期は軽症で済むケースが多いのですが、頭痛や不眠、倦怠(けんたい)感や集中力低下といった後遺症が特徴的です。個人差は大きいのですが、症状が一段落するまで平均して半年ほど通院するのが一般的です。

 ―例年より早くからインフルエンザが流行していますが、なぜでしょうか。

 2020年以降、新型コロナウイルス対策でマスク着用を徹底してきたため、飛沫感染症(呼吸器感染症)の流行も強く抑えられてきました。5月に新型コロナウイルス感染症は5類扱いに変更となり、感染対策が緩和されています。感染症は一定の流行によって集団免疫が確立・維持され、大流行にならないようバランスが取られていますが、コロナ禍はそれがなかった空白の期間になります。現在、インフルエンザに限らず、アデノウイルスなどさまざまな感染症が流行しているのはこのためです。

 日本でのインフルエンザの流行はオーストラリアなど南半球諸国での流行に強く影響を受けることが分かっていますが、今年は南半球で大流行しました。そのため例年より早くインフルエンザ患者が増加しており、感染者数のピークも大きくなることが予想されています。

 ―岡山大学病院における感染症内科の役割を教えてください。

 医療の進歩に伴って手術は複雑化し、免疫抑制治療を受ける患者が増え、さまざまな感染症リスクを抱える患者が増加しています。感染症内科は、当院での高度医療を支える診療科として、細菌・ウイルスなど多様な感染症を対象に専門的な診断・治療を提供しています。全国的にはHIV診療など特定の分野にしか対応しない感染症内科もありますが、当科は全ての臓器のあらゆる感染症を診療することをモットーに幅広く診療に当たっています。

 ―院内感染対策の取り組みはいかがでしょうか。

 抗菌薬(抗生物質)が効かない薬剤耐性菌は世界的に問題となっており、全ての医療機関が院内感染対策を強化する必要があります。当院では医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師ら多職種のメンバーで感染制御部を構成し、手洗いなど基本的感染対策の徹底からワクチン接種や感染症サーベイランスなど多面的な取り組みを続けています。

 ―2020年秋に渡航ワクチン外来を開設しました。

 コロナ禍が終わり、海外渡航をする日本人が急増しています。海外では日本で流行していない感染症がたくさんあり、渡航中は飲食・防蚊対策などに注意が必要であり、渡航先に応じて事前にワクチン接種をしておくとよいと思います。日本人旅行者が必要なワクチンとしては、狂犬病、A型肝炎などが代表的ですが、接種完了までに半年ほど必要なワクチンもあります。受診希望の方は、当院の渡航ワクチン外来のホームページをご参照ください。

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 はぎや・ひではる 岡山大学医学部卒。大阪大学医学部付属病院感染制御部助教、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科瀬戸内(まるがめ)総合診療医学講座准教授などを経て、2023年4月から現職。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年12月04日 更新)

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