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岡山博愛会病院 更井哲夫理事長、中尾一志院長に聞く

更井哲夫理事長

中尾一志院長

在宅復帰を目的とした医療を提供している岡山博愛会病院

 岡山博愛会病院(岡山市中区江崎)は内科を軸に回復期中心の医療を担っている。グループ全体で複数の医療介護事業所を運営し、在宅復帰への橋渡しを目的としたきめ細かいサービスを提供している。運営母体である社会福祉法人・岡山博愛会の更井哲夫理事長に法人の歩み、中尾一志院長に病院の果たすべき役割を聞いた。

更井哲夫理事長
戦後、父が法人を再建

 ―岡山博愛会は130年以上にわたり、キリスト教の精神で慈善事業を展開してきました。

 病院の歴史は1891年、宣教師派遣団体アメリカン・ボードの一員としてアリス・ペティー・アダムス宣教師(1866~1937年)が来日し、クリスマスに地元の貧しい子どもたちを自宅に招いたことにさかのぼります。アダムスは貧しい人たちを救う事業に情熱を注ぎ、小学校や洋裁・和裁の学校を開設しました。優秀な子はポケットマネーで大学へも進学させました。さらに1905年には無料で治療する施療院を開きました。これが今日の病院の原点です。

 ―アダムス宣教師は70歳の定年を迎え帰米しましたが、乳がんのため亡くなりました。

 後継指名を受けたのが父の良夫(1908~2000年)でした。岡山空襲で岡山博愛会関連の施設は全て焼失し、復興は不可能として理事会はいったん解散を決定しました。しかし、終戦後に復員した父は理事会を説得して解散無効を決議したのです。現在も存続できているのはあの時の決断があったからこそです。

 ―その後、さまざまな施設を再建されました。

 まず、病院と保育園を再開。52年には社会福祉法人・岡山博愛会を設立しました。その後、特別養護老人ホームなどを造りました。私が理事長を継いだのは97年です。2010年に病院の本院と分院を統合して現在地に新病院を新築移転しました。岡山博愛会の発祥の地には、診療所や在宅総合支援センターなどを新設。グループ内で質の高い医療介護サービスを提供できる体制を整えています。


中尾一志院長
質高い治療、リハビリ

 ―内科を中心に回復期から在宅復帰まで担うことを基本方針に掲げています。

 高血圧や糖尿病といった生活習慣病、消化器系や循環器系の疾患の治療とリハビリを提供して、自宅や施設など住み慣れた場所に帰ってもらうことを使命としています。岡山市内は高度急性期を担う大規模病院は多いのですが、急性期を経過した人の診療からリハビリ、退院支援まで一手に担い、在宅医療の架け橋になっている医療機関は多くはありません。私たちは“元気になれる病院”を目指し、さまざまな合併症を抱えている患者さんの全身を診ながら安全にリハビリに取り組んでもらい、在宅復帰まで責任を持って対応しています。

 ―在宅復帰を推進する具体的な取り組みを教えてください。

 病院を挙げて「元気になって、おうちへ帰ろうプロジェクト」を展開しています。活動は三つあります。まずは食事を楽しく安全に口から食べられるよう、言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士らがチームを組んで口腔(こうくう)ケアや嚥下(えんげ)機能の強化に取り組んでいます。口から食べることは生きることの活力につながります。退院後を見据え、誤嚥しにくく栄養価の高い食事、安全に食べる姿勢も助言しています。

 二つ目は自宅での転倒などの事故を減らすため、退院前にお宅を訪ね、手すりや段差の有無を確認します。どの筋肉を強化すればリスクを減らせるかといったことも調べて、必要なリハビリを提供します。生活に必要な福祉用具や医療介護サービスの相談にも応じます。

 そして三つ目は退院後の訪問です。病院から自宅に戻ったばかりの患者さんとご家族は不安が大きいため、困り事を聞いて適切な支援をしています。ケースによっては何度も訪問することもあります。一人暮らしの方には特にきめ細かな対応を心がけています。

 ―在宅復帰を進めるため、病院の機能を転換したそうですね。

 かつては寝たきりで病院で最期を迎える患者さんを主に受け入れていました。退院して自宅に戻る患者さんの割合は2割ほどでしたが、ここ数年、病棟の機能転換を進めてきた結果、在宅復帰する人の割合は約5割に増えました。全4病棟のうち2病棟は回復期リハビリテーション病棟、残りは地域包括ケア病棟と一般病棟で、療養病棟をなくしたのです。病棟をこれほど大胆に転換したケースは地方では珍しいと聞いています。

 ―マンパワーも充実させたと聞きました。

 常勤医師は16人に倍増しました。その中にはリハビリの専門医も2人います。看護師も2倍に増えました。専門的なリハビリを行ってもらうため、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士は計約70人、医療ソーシャルワーカーも7人います。

 ―医療と介護を効果的に連携させるため、病院の運営母体である社会福祉法人がさまざまな医療介護サービスを展開しています。

 病院を含め、計12施設が連携しているのも当院の大きな特長です。訪問看護、訪問介護サービスを提供して在宅での生活を支えているのはもちろん、寝たきりで在宅復帰のめどが立たない方も、適切な医療を届けるとともにみとりができる介護医療院と特別養護老人ホームで受け入れています。大抵の病状の方を私たちの施設でお世話することができるのです。

 退院すれば患者さんとの縁が切れたり、病院の役割が終わったりするわけではありません。入院期間よりもはるかに長い在宅での生活を支え続けていく覚悟です。

 ◇

 さらい・てつお 岐阜大学医学部卒。岡山大病院、呉共済病院などを経て、1981年に父が理事長を務めていた社会福祉法人岡山博愛会病院で内科医として勤務。97年に父の後を継ぎ、理事長に就いた。2024年に親子2代にわたり山陽新聞賞を受賞。76歳。

 なかお・かずし 鳥取大学医学部卒。岡山大病院、広島市民病院、岡山済生会総合病院などを経て、2015年に社会福祉法人岡山博愛会病院へ。16年から病院長、20年から副理事長。日本腎臓学会指導医、日本内科学会指導医など。医学博士。52歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年02月05日 更新)

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