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最新の画像診断 デジタルPET 放射線科(画像診断) がんの早期発見に有効 福倉良彦特任教授

福倉良彦特任教授

デジタル半導体PETの画像を確認する福倉特任教授(手前)ら

川崎医科大学付属病院が岡山県内で初めて導入したデジタル半導体PET。CTの機能も付加されている(川崎学園提供)

 がんを早期に見つけたり、進行具合を確認したりして治療計画を立てるために画像診断は必須である。川崎医科大学付属病院は昨秋、最新のデジタル半導体式の陽電子放出断層撮影(PET)装置を岡山県内で初めて導入し、より精度の高い診断と治療に役立てている。放射線科(画像診断)の福倉良彦特任教授に、機器の特徴や患者へのメリットなどを聞いた。

 ―最新の機器を導入した時期と目的を教えてください。

 これまで15年以上使っていたアナログ式の装置を2023年10月に最新の装置に切り替えました。撮影条件や画質を調整した上で11月から本格的に稼働しています。認知症の中でも最も多いアルツハイマー病に対して新薬(レカネマブ)適応のためのPET検査や、将来保険適応される可能性のある前立腺がんのPET検査など、多様な医療ニーズに応えるためです。

 ―PETにはどんな利点がありますか。

 コンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)は頭部、胸部、腹部、四肢というように検査する部位を絞って検査することが一般的ですが、PETは全身を診ることができます。さらに、代謝や機能といった細胞の活動状況を確認できます。一方、CTはがんの大きさや周囲組織の解剖を調べるのに向いており、当院では、PET単体ではなく、CTを組み合わせたPET/CTを使っています。

 ―アナログと比べたデジタルPETの特長はいかがでしょう。

 ごく小さな細胞を見つける能力(検出能)がアナログPETより高いです。また、アナログPETよりも放射線薬剤の投与量を減らすことができるため、被ばく量も3~4割減量しています。アナログPETと同程度の画像で良しとするなら、検査に要する時間を半分程度に短くすることも可能です。しかし、当院ではより鮮明な画像を基に正確な診断と治療を行うため、撮影時間の短縮を2割ほどに抑えて対応しています。

 ―デジタル半導体PET装置を用いてどのような検査をしていますか。

 体内に投与した陽電子放出核種で標識した薬剤を生体に投与する検査を行っており、使用する薬剤によりさまざまな目的に用いることができます。最も多いのはブドウ糖に性質の似た薬剤を静脈注射して行うFDG―PET検査です。炎症や悪性腫瘍のようなブドウ糖をたくさん取り込む病巣に薬剤が集まるのです。悪性腫瘍のほか、大血管炎、虚血性の心疾患、てんかんなどを調べるのにも適しています。

 さらに、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドベータの脳への沈着を調べるアミロイドPET検査も2月から行っています。この検査によって認知症の新薬であるレカネマブによる治療に適しているかどうかが分かるのです。

 ―デジタルはアナログPETに比べ、がんの発見率がどの程度向上するのでしょうか。

 デジタルPET装置が国内で普及し始めて日が浅いので、学術的な報告はまだ少ないのですが、肺がんの検出率を比較した海外の論文によると、がん病巣が5ミリ以下ではアナログPETが6%に対し、デジタルPETは88%、5~10ミリ以下ではアナログPETが72%、デジタルPETが94%とのことです。当院も症例を積み重ねてデジタルPETの優位性を裏付け、医学の向上に貢献したいと考えています。

 ―画像が格段に鮮明になった分、読影も容易になりましたか。

 そう単純なことではありません。アナログPETでは映らなかったものがデジタルPETでは映ります。難しいのは、それが以前からあったがアナログPETでは映らなかったものなのか、それとも新しくできたものなのか、判別が難しいことです。また、正常組織やそれほど大きくない炎症でもデジタルPETでは映り込みます。アナログとは違うデジタルPETの画像に慣れるとともに、より読影の能力を磨かねばならないと改めて感じています。

 ―どのようにして読影力の向上を図っていますか。

 日々の診療では医師が2人ずつのペアとなって、1人だけの場合よりもより多くの医師が多くの画像を見られるようにしています。さらに、月に一度、読影医が集合し過去に撮影した症例について診断結果の検証をしています。読影の際、重要なことは画像所見だけをうのみにしてはいけないということです。病歴やワクチン接種の有無などを事前に確認しておけば、より適切な診断をすることができ、無駄な追加検査を防げます。そのために診療科の垣根を越えたカンファレンスをし、患者さんの情報を共有しています。

 ―放射線同位元素を用いてどのような治療をしていますか。

 甲状腺がんやバセドー病、骨転移した前立腺がんなどの外来診療をしています。

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 ふくくら・よしひこ 1992年、鹿児島大学医学部卒業。同大大学院医歯薬学総合研究科准教授、同大学病院診療教授を経て、2022年10月、川崎医科大学放射線診断学特任教授に就任。日本医学放射線学会放射線診断専門医、日本核医学会核医学専門医・指導医。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年03月04日 更新)

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