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皮膚・排泄ケア認定看護師 笠岡第一病院看護部副科長 山崎恵さん(52) 人間の尊厳守る責任担う 

世間話をして入院患者を和ませる山崎さん

入院患者の皮膚の状態を形成外科医に説明する山崎さん

褥瘡回診で皮膚のケアをする山崎さん(右から2人目)ら

患者の床ずれ防止について話し合う山崎さん(右から3人目)ら

 「傷の処置に来ました。見せてくださいね」。笠岡第一病院(笠岡市横島)で行われる週に1度の褥瘡(じょくそう)回診。皮膚・排泄(せつ)ケア認定看護師の資格を持つ山崎恵さん(52)が声を掛け、医師、管理栄養士、理学療法士、病棟看護師、薬剤師たちとともに病室へ入った。

 医師が手際よく傷口を洗浄し薬を塗った。傷の状態や栄養状態、リハビリの進行状況などを全員で話し合った。

 同院の患者の褥瘡発生率はおよそ0・2%と極めて低いが、痛みを伴う上、いったんできると治るまでに日にちを要する。感染症を引き起こすこともあるため、病院を挙げて予防に細心の注意を払っている。

■もっと役立ちたい

 皮膚・排泄ケア認定看護師は、褥瘡などの体の傷、ストーマ(人工肛門、人工ぼうこう)、失禁(尿や便の漏れ)の三つの分野において熟練した看護技術を提供する。

 山崎さんは2016年、資格を取得した。褥瘡予防のエキスパートだった医師の指導を受けるうち、「専門的な技術と知識を身に付け、もっと患者さんの役に立ちたい」という思いが強くなったという。

 褥瘡はひどくなると骨や筋肉が露出することもある。「つくらないことが第一」と、リスクのある患者には普段からスキンケアを徹底している。体圧分散マットレスを使用したり、ポジショニング(体位変換)をしたりもする。

 ストーマへの対応では、術前にどの位置にストーマをつくるかを決め、術後は患者のおなかの状態に合ったストーマ装具を選ぶ。判断を誤ると、便や尿が装具から漏れてしまうだけに、責任は大きい。退院後のセルフケアについても指導する。

 尿や便の漏れに対しては、骨盤底筋体操を教え、日常生活の注意点などを助言する。

 「人間の尊厳に関わる仕事に携わっていることへの責任の重さを実感している」と強調する。

■地域でただ一人

 笠岡、井原、浅口市などの井笠地域で、皮膚・排泄ケア認定看護師は山崎さんしかいない。適切なケアを受けられるとして他院から紹介されてくる患者もおり、身が引き締まるという。

 資格を得る前は自分の受け持つ患者のことだけを考えていたが、取得後は全入院患者のスキンケアに目を配れるようになった。

 褥瘡が治って患者が退院できたときや、認知症があったり老老介護の状態にあったりしても自宅で適切にストーマ管理ができていることが分かったときは、この仕事を続けてきてよかったと実感する。

 一方、患者から相談を受けても、最善のアドバイスができなかったこともある。特に、ストーマに関してはさらに経験を積んで学んでいく必要があると自覚している。

 「一人一人の排泄の悩みを正面から受け止めながら、もっと技量を磨いていきたい」

■患者への恩返し

 新型コロナウイルス禍以前は、近隣の医療施設などの研修に招かれ、褥瘡予防やストーマケアの指導をすることがあった。コロナも落ち着いたため、要請があれば、再びどこにでも出向いていきたいと願う。「そのことが、自分を指導してくれた医師や先輩の看護師、これまで関わった患者さんたちへの恩返しにつながる」と言う。

 山崎さんはある日、褥瘡回診を終えると、呼吸器系の疾患で入院している高齢男性のもとを訪ねた。皮膚が弱くて傷ができやすい体質なので、気に掛けてきた。病気が治り、幸い褥瘡もできず、間もなく退院できることが決まった。

 「今日はあったかいですね。もうすぐ春が来ますね」。山崎さんが男性の腕を支え、ゆっくりと話しかけた。男性の表情が見る見るうちに緩んだ。

 山崎さんも満面の笑みで応えた。

 ◇

 皮膚・排泄ケア認定看護師 日本看護協会が熟練した看護技術と知識を持つ看護師を認定している。全19分野あり、皮膚・排泄ケアは1996年にWOC看護認定看護師という名で制度化され、2007年に現在の名称に変更された。昨年末現在、全国で約2730人、岡山県では47人が認定されている。資格は5年ごとの更新制。

 やまさき・めぐみ 1995年に看護師免許を取得。倉敷市の病院などを経て、2011年に地元の笠岡第一病院に入職した。16年、岡山県看護協会が設けていた平日に通学し週末に仕事をするシステムを利用し、山陽学園大(岡山市中区平井)に7カ月以上通い、さらにアパートを借りて広島市の病院で5週間の実習を積んで、認定看護師の資格を取得した。21年に資格を更新した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2024年03月04日 更新)

タグ: 皮膚笠岡第一病院

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